第26話 家族になる
強引な二人に流されるまま、俺は体をゴシゴシと洗われた。
こんなふうに石鹸で体を洗うなんて、王都から出て以来だ。正直めちゃくちゃ気持ちがいい。
だけど女の子二人に現れるというのはなんとも恥ずかしむず痒い。
いけないことをしている気分だ。
「あの、二人ともそれくらいで……」
「まだ汚れは落ちてない。こことか」
「あひゅん!」
「私も頑張ります! えい!」
「ひゃいん!」
……と、そんな感じで辱められた後、俺は温泉に体を沈める。
ああ……温かい。丁度いい温度だ。
体が中からポカポカと温まっていく。これは疲れも吹き飛ぶな。
住んでいた王城にも大浴場はあった。
だけどこんな大自然の中にある風呂なんてもちろんない。開放感が凄くて最高だ。
それに城のはただのお湯だったけど、これは天然温泉。
【鑑定】してみると『効能:疲労回復。魔力回路修復。魔力回復。肩こり腰痛etc……』と色々出てきた。通りで気持ちいいわけだ。
「ひろくてたのしーい!」
「わふわふっ!」
ソラとベルも楽しそうに泳ぎ回っている。
お行儀はよくないけど、俺たち以外に人がいるわけでもない。大目に見るとしよう。
と、こんな素敵なものを残してくれたご先祖様に感謝しながら日頃の疲れを癒していると、ヨルとリリアも温泉に入ってくる。
そして自然な流れで俺の両隣に座ってくる。
……あれ? さっきまで巻いていたタオルがなかったぞ?
もしかして……
「あ、あの。あまり見ないでいただけると助かります……っ」
耳まで真っ赤にするリリア。
いやいや! そっちが脱いだんだろ! ……とは言えず、俺は慌てて視線を逸らす。
湯気であまり見えなかったのが幸いだ。
「安心して。リリアのそれは立派な武器。むしろもっと活かすべき」
ヨルがよく分からないフォローをする。
するとリリアはその言葉を真に受けてもっと体を近づけてくるじゃないか。
柔らかいものが腕に当たるが、俺は鋼の精神力で耐える。
『
「……まったく。どうしたんだ二人ともこんなことして」
今までも甘えてくることはあったけど、今回は度が過ぎている。
俺は何を考えているんだと問いただす。
「私たちはリックに疲れを癒やしてほしかっただけ」
「まあこの温泉は助かったけど、だからって二人まで入る必要はないだろう」
「むう……リックは鈍感。これは手強い」
顔をしかめるヨル。
何を考えているんだか。
「……まあいい。そっちはじっくり進める。それよりリックに聞きたいことがある」
「聞きたいこと?」
そう聞き返すと、ヨルは真剣な表情で尋ねてくる。
「リックが何者なのか教えてほしい。貴方はどこから来て、なぜここにいるの?」
「……っ!」
俺はまだ、自分が王族であり、国を追われた立場であることを話していない。
エルフ達にも詳しいことを話してはいないのでリリアも知らないはずだ。
「話したくないなら話さなくてもいい。でも話してくれたら嬉しい。一人で抱え込むのは……悲しい」
ヨルの言葉にリリアもこくこくと頷く。
「わ、私も知りたい……です。お力になれるかは分かりませんが、一人で悩まないでください。私たちは家族なんですから」
二人とも真剣な表情をしている。
ただ気になるから聞いてるんじゃなくて、俺のことを心配して聞いているんだ。
……俺はばかだな。巻き込みたくないからと自分のことを隠して、その挙げ句心配をさせてしまっている。
逆の立場だったら自分も聞いてたくせに。本当に大馬鹿野郎だ。
「そうだな、話すよ。そんなに楽しい話じゃないけど聞いてくれるか?」
俺は二人の頭を優しくなでたあと、自分のことを話し始める。
ヨルはその話を静かに聞き、リリアは時に怒り、時に涙を流しながら聞いてくれた。
全てを話し終わった時、俺は呪いが解けたようにすっきりとした気持ちになっていた。
この日、俺たちは本当の家族になったんだ。
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