第25話 徒歩0分の秘湯

「ふー、疲れた疲れた」


 朝からソラとベルと共に狩りに出ていた俺はそう言いながら家の扉の前に行く。

 結構走り回ったので服のあちこちに泥がついている。


「一回水浴びでもしたいな。そうしたらご飯にしようか」

「うんっ! ソラおなかすいたー」

「わふっ!」


 そんなことを話しながら扉を開けて帰宅する。


「ただいまー……ん?」


 帰宅したらいつもヨルが出迎えてくれるのだが、今日はそれがなかった。

 それどころか家を見渡してもどこにも姿が見えない。いつもソファに座っているのにそこにもいない。いったいどこに行ったんだ?


「リリアも来てるかと思ったんだけどいないな。二人ともどうしたんだ?」


 ヨルが一人で外に出ることなんてない。

 もしかして何かトラブルに巻き込まれたか!?


 心配になりながら家の中に入っていくと、あることに気がつく。


「ん? これは……煙? いや、湯気か?


 家の奥から白い湯気が漂ってきていた。

 なんだこれは? 今までこんなことなかったぞ。


 俺は警戒しながら家の奥に入っていく。

 すると俺は今まで見たことのない扉があることに気がつく。


 その扉はわずかに開いていて、その隙間から湯気が部屋に入ってきていた。


「なんだこの扉?」


 この家には色々な部屋があることは知っている。

 いくつか出して中を見たことはあるけど、この部屋は初だ。いったい何の部屋なんだ?


「ヨルー? いるかー?」


 扉を開けて中に入る。

 するとそこには……豪華な風呂場が広がっていた。


「……へ?」


 ぽかんと放心する俺。

 ていうかここ外じゃない? いつ家から出たんだ?


 後ろを振り返ってみると、そこにはもちろん俺が入ってきた扉がある。

 だけど……家はなかった。

 扉だけがそこにある、異様な光景だ。


「これは時空間魔法か? また凄いものを作ったな俺のご先祖様は……」


 この温泉はきっと家から遠いどこかにあるんだろう。

 そこと家が時空間魔法で繋がってるんだ。そう考えれば辻褄が合う。


 それにしてもよくこんな施設が綺麗に残っていたものだ。

 そう考えていると……


「イラッシャイマセ。新タナ主人マスター

「へ?」


 声のした方を見てみると、そこには体が金属で出来ている人形がいた。

 背丈は人間と変わらないけど、明らかに普通の生き物とは違う。これはもしかして……


「もしかして魔導人形ゴーレムか?」

「ソノ通リ。私ハコノ温泉ヲ任サレテイル魔導人形ゴーレム『AMN−06』ト申シマス。ココの領域ヲ管理保全ヲ担当シテイマス。以後オ見知リ置キヲ」

「あ、ああ。こちらこそよろしく」


 執事服に身を包んだ丁寧なゴーレムと握手する。

 魔法技術が進んでいる国ではゴーレムが普通に街中で動いているらしい。だけどアガスティア王国はそこまで進んでいないので、俺は今まで見たことがなかった。


「でもゴーレムってまだ大雑把な指示を聞いてもらうことしか出来なかったはず。こんな風に自由に話せるゴーレムなんて聞いたことないぞ? それなのに三百年も前にこんなものを作るなんて」


 相変わらず俺のご先祖様は規格外だ。

 このゴーレムを外に出したら大騒ぎになるだろうな。


「オ名前ハリック様トオ伺イシテオリマス。間違イナイデショウカ?」

「ああ。間違いない」

「カシコマリマシタ……ハイ、正式ナ主人マスタートシテ登録完了イタシマシタ。コノ情報ヲ全端末ニ同期イタシマシタ、以降全端末ニ命令可能デス」

「……よく分からないけどありがとう」

「イエ、コレガ役目デスノデ。ソレヨリ……オ連レノ方ガオ待チデス。ドウゾ奥ヘ」

「あ、ああ」


 ゴーレムに促され、奥に行く。

 するとそこにはリリアとヨルの姿があった。


「ここにやっぱりいたか……って、え!?」


 現れた二人の格好は、普段とはかなり違っていた。

 タオルを体に巻いているだけで、他には何も身に纏っていない。そして長い髪は巻き上げられ、うなじが見えるようになっている。


 少し考えれば予想できた。二人はお風呂に入ってたんだ。

 それに気づかず入ってしまうとは不覚……!


「わ、悪い! まさかお風呂に入ってるとは思わなくて……」


 急いでその場を立ち去ろうとする。

 しかしそんな俺の手をリリアは掴んで引き止める。


 ど、どういうことだ?


「待ってくださいリックさん! 私たち、リックさんを待っていたんです!」

「……え?」


 意味が分からず思考が停止フリーズする。

 どういうことかとリリアの言葉を待つけど、なぜか彼女もあわあわと停止フリーズしてしまっている。


 するとそれを見かねたヨルが口を開く。


「いつも頑張ってるリックを二人で労おうって話した。体も汚れてるみたいだし丁度いい。今すぐ服を脱いでこっちに来て」

「いや、それは恥ずかし……っておわあっ!?」


 物凄い力と手際の良さでひん剥かれた俺は、タオル一枚のみ着用して連行されるのだった。

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