第17話 帰宅

 家に帰る途中、俺たちはリリアに出会った。

 突然ヨルが心配で家を飛び出したモルドを追い、森の中を走っていたようだ。


 俺は何が起きたのかを全てリリアに話した。

 リリアはモルドを止められなかったことを悔み、自分を責めた。


 だけどそれはリリアのせいじゃない。モルドは自分の意志で命を落とし、満足して逝った。

 俺とヨルがそう言ったことでリリアはなんとか落ち着きを取り戻した。


 リリアは強い。まだ少し引きずっているみたいだけど、時間が解決してくれるだろう。


 そうして無事帰宅した俺はソファにドサッと腰を下ろす。

 ふう、やっと帰ってこれた。


 みなそれぞれにくつろぐ中、ヨルだけは立ち尽くして居心地悪そうにしていた。

 ヨルはこの家に来るのは初めて。そりゃ落ち着かないか。


「自分の家だと思って適当にくつろいでくれ」

「ありがとう。でもその前に……お墓を作りたい」


 ヨルの手にはモルドの片眼鏡モノクルがある。

 確かに気持ちに整理をつけるためにもそれは必要な行為だ。


「分かった。俺も手伝おう」


 家から出て、少し離れたところにモルドの墓を立てた。

 遺体はないのでヨルは墓標に片眼鏡モノクルをかけた。

 ここはギリギリ結界の中、モンスターに荒らされることはないだろう。


「……モルド爺は私が生まれた頃からずっと世話を焼いてくれていた。私にとっては家族も同然だった」


 昔を思い出すように、ぽつりぽつりとヨルは語りだす。


「吸血鬼に姿を変えられてからも私が正気でいられたのは、爺がいてくれたおかげ。きっと一人だったら正気でいられなかった。返しきれないほどの恩があるのに、私は最後までそれを返せなかった……」


 墓の側にうずくまり、ヨルは肩を震わせる。

 俺はそんな彼女の肩に手を乗せる。


「最期の時、モルドは笑っていた。自分の死よりヨルが無事なことが嬉しかったんだ。だから生きることがモルドに対する最大の恩返しになる……と俺は思うぞ。勝手に代弁しているみたいで悪いけどな」


 俺の言葉にヨルは返事をしなかったが、うずくまりながら頭を縦に振っていた。

 この子はかしこい。後を追うような真似はしないだろう。


 ヨルには一人で悲しみと向き合う時間が必要だと考え、俺はそっとその場を去った。


「ねえ。あの子だいじょうぶだった?」


 少し進むとソラとベルが心配そうに近づいてきた。

 二人ともヨルが気になっているようだ。


「ああ、大丈夫だよ。だけどそうだな……ベルは近くにいてやってくれるか? ソラは一緒に帰ろう」


 ソラを肩に載せ、ベルだけヨルのもとに行かせる。

 するとソラは不思議そうに尋ねてくる。


「なんでベルだけ行かせたの?」

「話を聞いてくれる存在が近くにいると助かると思ってな。でもそれは聞いてくれるだけの存在のほうがいいと思った。俺やソラは話せるから完全に気を許すのは難しいんだ。その点ベルは話せないからなんでも気兼ねなく話すことが出来る」

「ふーん」


 これはよく分かってないふーんだ。

 まあまだソラは子どもだから分からないか。俺も母上を亡くした時にその気持が初めて分かったしな。


「さ、帰って支度をするとしよう」

「したく? なんの?」


 ソラが首を傾げる。


「ご飯の支度だよ。泣くと結構疲れるもんだ。ヨルに美味いものを食べさせてあげようじゃないか」

「うおー! ソラもお腹すいた!」


 テンションが上ってぴょんぴょんと肩で跳ねるソラと共に、俺は家の中に戻るのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る