第16話 後始末

「ふう、ようやく終わったな」


 しばらく経っても復活しないので俺はようやく一息つく。

 中々にしぶとい相手だった。さすがに疲れたな。


「アイテムは……意外と落ちてないな。まあ体を乗っ取ったばかりだから仕方ないか」


 バラドが消えた場所に落ちていたのは鋭い牙が二本と、真っ赤な宝石が付いている指輪。

 武器とかがあるとワクワクするんだけど、それは他の場所で倒された時に落としたんだろう。まあしょうがない。


「ソラとベルもお疲れ様。助かったよ」

「ふふん、おやすいごよーだよ」

「わんっ!」


 ヨルを守ってくれていた二人の騎士ナイトを労う。

 実際二人がいなかったら結構大変な戦いになっていただろう。二人とも小さくて可愛らしい見た目だけど、本当に頼りになる。


 俺は二人を軽くなでた後、座り込んでいるヨルに目を向ける。


「大丈夫か? 立てるか?」

「え? ああ……大丈夫」


 彼女は立ち上がり、服についた土をはたいて落とす。

 そして真剣な表情で俺の顔を見て、頭を下げる。


「私の国の……みんなのかたきを討っていただきありがとう。この恩は忘れない」

「俺はそいつに頼まれただけだ。礼ならそいつに言ってくれよ」


 俺はそう言ってヨルの持つ片眼鏡モノクルを指差す。

 ヨルは一瞬驚いた表情をしたあと、穏やかな笑み浮かべて「そうですね」と言う。


「ありがとう、モルド爺。爺の分も私は生きるから……」


 大切な人を亡くした人の痛みはそう簡単には消えない。

 でもヨルにはそれを乗り越える強さを感じる。きっと乗り越えてくれるだろう。


 と、そんなことを考えていると草むらからガサガサと音が鳴り、何かが姿を現す。


「誰だ!?」


 音のした方を見ると、そこには俺がここに来る途中で倒した吸血鬼狩りヴァンパイアハンターがいた。そういえば他の吸血鬼狩りヴァンパイアハンターはバラドが殺してしまったが、こいつだけは俺が気絶させたままだったな。


 その男は両手を上げながらゆっくりと近づいてくる。


「戦闘の意思はない。話を聞いてもらえないだろうか」

「……わかった。話を聞こう」


 俺は警戒しながらもその男の話を聞くことにする。

 一応ソラとベルにはヨルの警護をさせる。


「バラドとの戦いは隠れて見ていた。一連の流れは把握しているつもりだ」

「それなら話は早いな。いったい何の用だ? 俺と戦う気か?」

「あの戦いを見て勝てると思うほど自惚れてはいない。私にもう戦闘の意思は、ない」


 見ていたなら俺が仲間を殺したわけじゃないことも知ってるだろうし、ヨルを引き渡せと行っても断ると分かっているだろう。

 いったい何が目的なのだろうか。


「仲間を弔わせてほしい。一箇所に埋めて小さな墓標を立てるだけでいい」

「……そういうことか。それなら構わない」


 俺のいた王国では死者は大地に埋めることで一度星に還り、そして再び人として生まれ変わることが出来る……と言われている。

 全ての国が同じ考えじゃないけど、多くの国で同じ思想が広がっている。こいつらも同じなんだろう。


「それと勝手な願いだが、私を見逃してほしい。私が死ねば仲間が不審に思いここに来る可能性もある。だが生かして返してくれるならば、あなた方のことは決して口外しないし、二度とこの森にも足を踏み入れない」


 なるほど。たしかにそれは悪くない話だ。

 モンスターならまだしも、人間とはあまり戦いたくないからな。


「だがその提案には問題が二つあるぞ。一つはあんたが約束を守る保証がないということ。そしてもう一つは……あんたを裁くのは、俺じゃないということ」


 俺はヨルに顔を向ける。

 吸血鬼狩りヴァンパイアハンターに苦しめられたのは他ならぬ彼女だ。

 俺が勝手に決めていい話じゃない。


「どうする? こいつらが許せるか?」


 俺の問いにヨルは目を閉じて考え、一つの結論を出す。


「この人たちから逃げている間、私はすごく怖かった。今もその恨みは消えてはいない。でも……この人たちがいなかったら、私は今もバラドに囚われていた」


 ヨルの言う通りだ。

 吸血鬼狩りヴァンパイアハンターたちは良くも悪くも状況を変えた。


「仲間を失って罰はもう受けたと私は考える。それが私の答え、いい?」

「ヨルがそれでいいって言うなら俺は何も言わないさ」


俺がそう言うと、吸血鬼狩りヴァンパイアハンターの男は深く頭を下げる。


「……感謝する」

「構わない。それよりもあなたには『血の盟約』を受けてもらう。私の血を文字としてあなたに刻み込む。もしその内容を破ったりしたら、盟約の罰を受けあなたは体内から切り裂かれ、死ぬ。それがあなたを生かして返す条件」


 なるほど。それならバラされる心配はなくなるな。

 さすが吸血鬼、便利な能力を持っている。


「構わない。やってくれ」


 男はそれをすんなりと受け入れた。

 ヨルは指先から血を出し、男の手のひらに文字を書く。

 その文字は男の体内にすうっと溶けていき、消える。


「これで終わり。もう行ってもらって構わない」

「ああ、分かった。……それじゃあ達者でな」


 男は仲間を弔うため、立ち去る。

 これで本当にやることは全て終わった。


「それじゃあ帰るか。ヨルも来るだろ?」


 そう尋ねると彼女は少しだけ考えた後、こくりと首を縦に振る。

 俺は彼女の手を取り、みんなで帰宅するのだった。

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