第15話 夜の支配者

 夜の支配者ナイトロードに進化した俺がまず感じたのは、全身に広がる全能感。

 今までもレベルアップした時は、体中にみなぎる力を感じていたが、今回のそれは今までの比じゃない。


 まるで今までは体中に重りを付けて生活していたかのように、体が軽く感じる。

 これが進化。今ならなんでも出来そうだ。


「貴様……何をしたっ! 何だその姿は!?」


 叫ぶバラド。


 姿って何のことだ? と思ったが、自分の体見てみたらいつの間にか覆う黒いマントが出現していた。

 見た目は布だが、魔力で出来ているみたいだ。思った通りに動き、形を変えることが出来るのが本能で分かる。

 おそらくこれが夜の支配者ナイトロードのスキル『夜王絶技ナイトアーツ』の一つなんだろう。中々自由度の高い、良いスキルを手に入れたみたいだ。


「なんでも俺は夜の支配者ナイトロードになったらしいぞ」

「馬鹿な……あり得ぬ! 夜の支配者ナイトロードは闇に生きる者たちの王、伝説の種族だぞ! 貴様のようなただの人間がなれるはずがない!」


 バラドは怒りで顔を赤く染めながら叫ぶ。

 言葉では否定しつつも、心のどこかでは認めてしまっているみたいだ。


 俺は少し離れているところで様子をうかがっているソラとベルの方に視線を移す。


「二人とも、ヨルを頼む」


 そう伝えると二人はすぐさまこちらに戻ってくる。

 よし、これで思い切り戦える。


「私と一人でやりあえるとでも? 確かに少しは強くなったようだが、戦力差は歴然だ」


 バラドは血の海から化け物を次々と生み出していく。

 夜の支配者ナイトロードとなったことで分かる。あの怪物たちは、バラドに血を吸われた犠牲者たちだ。

 殺されてなお、その魂を囚われ手下として使われる哀れな存在。それが『赤い怪物レッドモンスター』なんだ。


「お前らも救ってやる」


 聖剣アロンダイトを抜き、構える。

 すると聖剣は俺の魔力を吸い取り、その姿を変えた。


 黄金の刀身に赤い線が走り、その鋭さは以前より増している。

 内包する魔力も凄まじい。使わなくてもこれがどれだけ凄い武器なのか分かる。



【聖紅剣クリムゾン・ダイト】

ランク:EXⅡ

夜の支配者ナイトロードの力を得た聖剣。

闇と光、相反する属性を併せ持つ。



 進化した聖剣を、構える。

 するとバラドは生み出した怪物たちに命令を下す。


「行けっ! 奴を肉片一つ残すな! 赤の軍勢レッドスタンピード!」


 無数の怪物たちが、その牙や爪を剥き出しにして俺に襲いかかってくる。

 普通の人であれば泣き叫びながら逃げ出す、恐ろしい光景。しかし進化した俺は、その光景に全く恐怖を抱かなかった。


「いくぞ」


 聖剣を握りしめ、横に構える。

 大量の魔力を刀身にまとわせ、化け物たちに向かって思い切り振る。


 ヂィン、という聞いたことのない音と共に放たれる衝撃波。

 それは一瞬にして無数の赤の怪物レッドモンスターの体を蒸発・・させてしまう。


「ば、ばかな……」


 目の前の光景が信じられず、絶句するバラド。

 彼の目の前には、血の海が広がるだけ。生み出した配下たちが動くことはもうない。


 俺は強化された脚力で一瞬で距離を詰め、バラドの腹部に蹴りを入れる。


「ふぐっ……!?」


 苦悶の表情を浮かべながらよろめくバラド。

 俺は続けて顔面を思い切り殴りつける。


「んがは!?」


 バラドは地面を転がりながら苦しむ。

 その表情にもう余裕はない。それどころか怯えまで見えた。


「や、やめてくれ! 私が悪かった! もうその娘にも貴様にも手は出さない! だから見逃してくれ!」


 なんとこの期に及んでバラドは命乞いをしてきた。

 国を滅ぼし、数多の人間を殺し、少女を監禁しておいてそんな台詞を言えるなんて驚きだ。


 俺は奴の襟を掴み、自分のもとに寄せて尋ねる。


「お前は今まで命乞いをしてきた人を助けたのか?」

「ぐっ……クソ。人間があ……あまり調子に乗るなよッ!」


 バラドは突然牙を剥き、俺の首に噛みつこうとしてくる。

 俺はその大きく開いた口の中に、聖剣を素早く差し込む。


「もがっ!?」

「もうお前とは口も聞きたくない。今まで苦しんだ人の痛みを味わいながら死ね!」


 聖剣に魔力を流し込む。

 するとバラドの体内に光の魔力が流れ込み、体が中から崩壊していく。


「もご、うおおおおおおおおおッ!!」


 森に響き渡る断末魔。

 数秒の後、森には静寂が訪れ奴の体は完全にこの世から消え去った。


 こうして国を滅ぼした怪物は滅んだのだった。

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