第14話 進化

「さあどうする!? その娘を見捨てるか、それとも食屍鬼グールに成り果てるか!? 好きな方を選ぶといい!!」


 愉悦に満ちた笑みを浮かべながら、バラドは叫ぶ。

 しかし俺はそれを無視し、吸血衝動にひたすら耐えるヨルに話しかける。


「おい、俺から血を吸え」

「それは……できない。あなたを化け物にするわけにはいかない……」

「大丈夫だ。俺は食屍鬼グールにはならない。遠慮せず吸ってくれ」


 そう言うと、ヨルは「この人何言ってるんだろう」と言いたげな目を向けてくる。

 まあいきなりそんなこと言っても信じてもらえない、か。


「まあとりあえずガブッといってくれ。ほら、遠慮せず」


 首筋をさらしてヨルの目の前まで近づける。

 ヨルはそれでもしばらく耐えていたが、やがて口からよだれを垂らしながらふらふらと近づく。


「もう……我慢できない……っ!」


 牙を剥き、俺の首筋にがぶりと噛みつく。

 さすがにちょっと痛いが、まあ我慢できる程度の痛みだ。


「ごめんなさい……ごめんなさい……」


 血を吸いながらヨルは謝罪する。

 俺の首に流れ落ちる温かい液体は血だけではないだろう。


 ごくごくと俺の血を吸っていくヨル。

 すると俺の体にも異変が起きる。


い゛……っ!」


 噛まれた首筋から広がるように、何か・・が体に侵入してくる感覚。

 それを感じると同時に、俺の目に文字列が浮かび上がる。



食屍鬼グール化因子確認。抵抗レジストを開始します】



 その文字が現れると同時に俺の体は楽になっていく。

 どうやら神の目の特典が発動したみたいだ。


 俺の体に変化がないことに気づいたのか、ヨルが驚いたような声を出す。


「本当に平気……なの……?」

「ああ。言っただろ? 平気だってな」


 まだ首に牙を刺しているヨルの頭をなでると、彼女は声を出しながら泣く。

 よほど他人を食屍鬼グールにしてしまうことが怖かったんだろう。



 それにしてもまさか神の目にこんな隠し効果があったなんて。もしかして他にもなにか能力があるのだろうか。


 と、そんなことを考えていると再び文字が現れる。



抵抗レジスト完了。食屍鬼グール化因子及び吸血鬼の遺伝子情報の完全解析が完了しました】


【解析結果を用いて『吸血鬼』か、その上位種『夜の支配者ナイトロード』に進化可能です。進化いたしますか? 《はい/いいえ》】


「進化、だって?」


 確か種族が変わることを進化と呼ぶはずだ。

 一定の強さを得たモンスターが上位種に変化することがたまにあると聞く。実際ソラも普通のスライムから変幻自在のヴァリアブルスライムという種族に進化した。


 その現象が俺にも起きているのか。


「なぜ!? なぜ食屍鬼グールにならない!? 貴様はいったい……何者なんだ!!」


 後ろではバラドがやかましく喚いている。

 どうやら悩んでいる暇はないみたいだ。


「やってやるよ。【はい】だ」


 夜の支配者ナイトロードというものが分からない以上、リスクはある。

 でも俺はもっと強くなりたい。もう二度と理不尽な目に合わないように。


 そして俺の仲間に同じ思いをさせないために、どんな理不尽も跳ね返す力が欲しい。



【――――かしこまりました。『進化』を開始します】



 体全体が沸騰するかのような感覚。

 まるで体の内側からまるごと作り変えられているみたいだ。


【レベル制限キャップを解放。種族ステージを更新。蓄積経験値の還元を開始――――】


 時間にして数秒。

 全身の違和感が収まった時、俺は今までにない力を自分の中から感じた。


「こんな強大な力、今まで感じたことがない……! あなたは本当に何者なの?」


 俺の異変に気づいたヨルは吸血をやめ、俺のことをじっと見つめてくる。

 不安そうにしている彼女に俺はこう言った。


「俺はお前の『味方』だよ」


 そう言った俺は立ち上がり、バラドに向き直るのだった。



【リック・ザラッド(人間・夜の支配者ナイトロード)】

レベル:183

スキル:神の目、夜王絶技ナイトアーツ

王家を追われた元王子。

神の力と夜の力をその身に宿している。


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間違った話を投稿してしまったので投稿し直しました。

報告くださった方、ありがとうございます。

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