第13話 モルド爺
激しく血を引き出すモルド。
俺は全力で駆け抜け
『ゴア……』
血溜まりへと姿を変える
それの爪に刺されていたモルドは、地面へ落下する。
「モルド爺!」
その体をヨルが受け止める。
彼女の腕の中で、モルドは血を流しながら笑みを浮かべる。
「よかった……ご無事なようですね……」
「でも爺は……」
「私はよいのです。姫さえご無事であれば……」
モルドの腹からはとめどなく血が流れている。
俺は駆け寄ってレッドポーションを傷口にかけるが、傷が塞がることはなかった。どうやら手遅れだったみたいだ。
「くそ……」
「よいのですリック殿。どうせ私は国が滅んだ時に一度死んでいたはずの身。姫をここまで見守ることが出来ただけで充分です」
モルドの体から、急速に熱が失われていく。
別れの時間はすぐそこまで来ていた。
「リック殿。姫の面倒を見てほしいなどと過ぎたことは言いませぬ。ただ……良き友人になってくださいませぬか。友と過ごす楽しき時間を知らぬまま姫は育ちました。それを教えてあげられなかったことが心残りなのです」
「ああ、約束しよう。姫のことは任せてくれ」
俺の言葉を聞いたモルドは、満足そうに笑うと最後にヨルの方を見る。
「それでは姫。お先に暇をいただきます。色々ありましたが……爺は楽しかったですぞ」
「うん……私も。楽しかった。今までありがとう」
そう最後に言葉をかわして、モルドの体は消え去った。
残ったのはつけていた
最後まで立派なやつだった。
「ぷふっ」
神経を逆なでする笑い声。
振り返るとそこにはおかしそうに笑いをこらえるバラドの姿があった。
「ふふふ……はーはっは! いや失礼。笑ってはいけないのは分かっているのだがな……ふふっ。人の死に様というのはどうしてこう滑稽なのだろうか。ひ、ひひ。はーはっはっは!」
「貴様……」
やっぱりこいつは邪悪だ。
生かしておけば悲劇を生み出し続けるだろう。確実にここで仕留めなければならない。
「ふふ、そう怒っても貴様にその娘を救うことは出来んぞ。それは完全に吸血鬼となっている、私を殺したところで人間には戻れない」
「それがどうした」
「無知な貴様にも分かりやすく教えてやろう。吸血鬼には『吸血衝動』がある。長時間血を摂取しないでいると衰弱し、やがて死に至る」
ヨルは『死』という言葉に反応し、ビクッと震える。
どうやら奴の言っていることは本当のようだ。
「それは人間から血を吸うことを拒否し続けている。血を吸われた人間が
バラドがパチンと指を鳴らすと、急にヨルが「が……あ……ッ!」と喉を押さえて苦しみだす。
「どうした!?」
「ちか、づかないで……のどが……っ」
歯を食いしばり、苦悶の表情を浮かべるヨル。
このままでは気が狂ってしまいそうだ。
「私からそれへの供給を絶った。何とか自分で吸血衝動を抑えられているとでも思ったか? 死なない程度には力を送っていたのだよ。せっかく手塩にかけて育てた花嫁。殺すのは惜しいのでな」
「悪趣味な真似を……!」
「さあどうする人間?
そう言ってバラドは高笑いする。
俺がヨルを見捨てられないことが分かっていて楽しんでいるんだ。
どうする?
俺はどうすれば――――
「……ころ、して」
か細い声が俺の耳に入る。
その声の主はヨルだ。喉を押さえ、苦しそうにしながら俺に懇願してくる。
「誰も、私のせいで
体は弱りきっているが、その目に宿る力は強い。
理不尽に抗う強い目。俺はその目が好きだ。理不尽な目に遭ってそこから立ち直る大変さを知っているから。
だからこんなところで見捨てたりはしない。
「何か方法があるはずだ」
俺が
でも普通に考えただけでそんな方法は思い浮かばないだろう。
だったら普通じゃない手を使うんだ。
俺にはあるじゃないか。俺だけにしか使えないあの技が。
今こそこの力を頼るときだ。
「いくぞ。【鑑定】――――!」
【ヨル・ミストレア(吸血鬼)】
レベル:67
亡国の姫。
吸血鬼バラドの力で吸血鬼に変えられた。
モルド爺の作る温かいスープが好きだった。
これがヨルの基本情報。
ここから更に『吸血鬼』の部分に注目する。
すると更に細かい情報が出てくる……いいぞ。
【吸血鬼】
強靭な肉体と高い魔力を併せ持つ種族。
血を分け与えられた人間は吸血鬼へと姿を変える。
吸血した対象は
ここから更に……『
【
物言わぬ屍人、
防ぐ手段は少ない。
防ぐ手段は少ない、か。
ないことはないってことだ。俺は更にその部分を集中してみる。
すると更に情報が現れる。
【神の名を冠する
その更に下に現れた情報を見た俺は、思わず笑みを浮かべた。
【
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