第15話 王都城下町

「わ、わ! 凄いです! お店がたくさんあります!」


 リリアは興味津々といった感じでお店を見て回る。

 その頭にはエルフの耳を隠すためのフードが被せてある。犬の尻尾並みにぶんぶん揺れる耳はかなり目立つ。

 エルフであることがバレれば注目されるからな。


 楽しそうにしているリリアを微笑ましく見守っていると、すぐ隣を歩くヨルが袖をくいっと引いて尋ねてくる。


「……本当に明るい時間に外に出てよかったの?」

「まあ大丈夫だろ。トラブルになったら逃げればいい」


 今の時刻は昼。

 エルフ救出作戦は今日の夜行われる。


 昼はゆっくりしているつもりだったが、宿泊している宿からリリアが街を興味深げに見ていたので少しだけ王都観光しているのだ。

 王都の外で待機しているダークエルフたちには悪いが、まあ少しくらい許されるだろう。


「リック。王都ってこんなに寂しい街なの? 王都アルガードはもっと活気のある街だと聞いていたのだけど……」


 ヨルは周りを見ながら呟く。

 大きな街に来たことがないリリアは分からないだろうけど、確かに今のアルガードは寂れてしまっている。

 建物はたくさんあるが、営業してない店もちらほらあり、街を歩く人達の顔もどことなく暗い。


「……昔はこうじゃなかったんだけどな」


 俺の記憶の底にあるこの街は活気溢れる賑やかな街だ。

 しかし母上が死に、父が変わってからこの街も変わってしまった。


 若い人は戦争に駆り出され、残った人は重い税で苦しんでいる。俺はなんとか立て直せないかと色々動いてはいたけど、一人の王子の力では限界があった。


 父を変えるか……代えないかしないとこの街は、国は良くならないだろう。



「リックさん! こっちに面白そうなものがありますよっ!」

「ああ! 今行く!」


 リリアに呼ばれ、俺は一つの露店の前に行く。

 そこにはアクセサリーなどの小物がたくさん並んでいた。


 素材は上等品じゃない一般的な物だけど、デザインはよく出来ている。

 リリアは目をキラキラさせながら眺めている。


「これなんてどうですか?」


 リリアはその中の一つを手に取り、髪の部分に当てて見せる。

 花の形をした可愛らしい髪飾りだ。よく似合っている。


「いいじゃないか。似合ってるよ」

「本当ですか!? ありがとうございますっ!」


 そう言ってリリアは花のような笑みを浮かべる。

 俺は露店を開いているおばちゃんに目を移し、尋ねる。


「これはいくらだ?」

「はい。そちらは660ルアンになります」


 660ルアンか。一食分くらいの値段だな。

 それくらいなら払っても全然問題ない。庭で取れた物の中から、高級過ぎない物をいくつか売ってきたからな。

 宿代や食事代はそうやって稼いだ。


「い、いいんですか? 買ってもらっちゃって……」


 おばちゃんにお金を渡すと、リリアは申し訳無さそうにそう尋ねてくる。


「これくらい構わないさ。リリアにはいつもお世話になっているからな」

「そうですか? じゃあ……貰っちゃいますね。えへへ」


 嬉しそうに笑うリリア。

 プレゼントして正解だったな。


 そう思っていると首の後ろに嫌な視線を感じる。


「…………」


 振り返るとそこにはとても不機嫌な顔をしたヨルがいた。

 しまった。一人だけプレゼントするってのは不公平だったな。怒って当然だ。


「よ、ヨルもなんか欲しい物あるか? なんでも買うぞ?」

「ふーん……なんでも……ね」


 意味深な笑みを浮かべたヨルは、すっと俺の前に左手を出す。

 ん? どうしたんだ?


「私、指輪・・が欲しい」

「……っ!?」


 左手を出し、指輪を欲しがる意味はいくら俺でも理解できる。

 つつ、と汗が額を流れる。適当なことを言ってごまかしちゃ駄目だ。誠意を持って答えないと。


「……もう少し待ってくれないか?」

「へ?」


 ヨル的には俺をからかって言ったつもりなんだろう。

 真面目なトーンの返事に驚き目を丸くしている。


「もっとちゃんとした物を、ちゃんとした時に渡すから。もう少し待っててほしい」

「……うん。わかった。楽しみにしてる」


 嬉しそうにそう答えてくれたヨルは、俺の手をぎゅっと握ってくるのだった。

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