第14話 共同作戦
マーガレットは全てを聞き、しばらく考え込む仕草をした後、口を開く。
「……そうですか。エルフの皆様には申し訳ないことをしてしまいましたね」
悲痛な表情を浮かべるマーガレット。
リックはそんな彼女をフォローする。
「確かに王国にも落ち度はある。でも姉さんが気に病むことはないのでは? 全ての悪を見逃さないことなど不可能です」
「ええそうです。しかし……この建物の所有者が王国貴族だとしたら?」
「な……っ!?」
リックもその可能性も考えなかったわけではない。
エルフを捕獲するには手練れの戦士が何人も必要なはず。それを用意できるのは当然金持ちしかいない。
金持ちと言えば貴族が真っ先に頭に浮かぶが、いくら貴族が愚か者でも自らの地位を危険にさらしてまでこんなことをするとは考えたくなかった。
マーガレットはリックが持ってきた地図を指差しながら言う。
「この建物はデズモンド伯爵所有のものです。本当にここにエルフが集められているのだとすれば、伯爵が関与していないはずがありません」
「デズモンド伯爵、か……」
リックは頭の奥底からその名前を思い出す。
確かデズモンド家は古くから存在する由緒正しい家のはず。しかし最近は商売が上手くいってないのか名前を聞くことが少なくなった。
家を建て直すため、このような悪行に手を染めた……そう考えると辻褄が合う。
「リック、貴方はどうなさるおつもりなのですか?」
「当然そのふざけた貴族の目論見を叩き潰すつもりです。そのために姉さんの力を借りたい」
その建物にいる悪人をすべて倒すことが出来ても、その元締めであるデズモンド伯爵の罪を立証することは難しい。
奴隷を扱っていたという証拠を手に入れても、人前に姿を見せることの出来ないリックやエルフではそれを提出することが出来ないからだ。
しかし現役の王女であるマーガレットが手伝ってくれるなら話は別だ。
マーガレットはしばらく考える素振りを見せたあと口を開く。
「……分かりました。このような悪行、私も見過ごすことは出来ません。私も出来る限り手伝います」
そう言ってマーガレットはリンのことを見る。
「リンを連れて行ってください。建物の中で見つけた証拠などを彼女に渡していいただければ、後は私が伯爵をなんとかいたします。リンは潜入任務のスペシャリストですし、役に立つでしょう」
「ありがとう姉さん。助かるよ」
リックはマーガレットの手を握り、昔と変わらぬ笑みを浮かべながら言う。
するとマーガレットの顔がボッ、と赤く染まりあわあわしだす。
その様子を隣に控えるリンは冷たい目で見る。
「マーガレット様……」
「な、なんですか! そんな目で見ないで下さい!」
ぎゃいぎゃいと言い争いをする二人を見て、リックは「仲がいいなあ」と温かい目で二人を見る。
「さて、と」
紅茶を飲み干したリックは席を立つ。
「もう行くのですか」
「うん。今日中にその建物を下見しておきたくてね」
そう言ってリックは窓を開け、ベランダに出る。
真剣なその表情は、もう昔の彼ではなく、精悍な戦士のものになっていた。マーガレットはそれを嬉しく、そして同時に寂しく思った。
「リック。気をつけてくださいね」
「うん。姉さんも働きすぎないでね
最後にそう言い残して、彼は夜の闇に消えていくのだった。
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