第19話 星空のスープ

 完成した『星空のスープ』を皿によそう。

 立ち上る湯気はキラキラと輝いている。見たことはないけどオーロラはこんな感じなのだろうか。


「どうぞめしあがれ」


 少し肉を多めにいれたそれを、ヨルの前に置く。

 急な展開についていけないのか、少し困惑気味のヨル。しかしその目はスープを捉えて離さない。空腹には抗えないみたいだな。


「これって……?」

「ヨルのためにみんなで作ったんだ。色々と疲れただろ? 元気の出る物をたくさん入れたから食べてくれ」

「私のために……」

「そうだ。俺だけじゃない、リリアやソラもヨルに元気になってほしくて手伝ってくれたんだ」


 ヨルは俺たちを見回したあと、困惑した様子で口を開く。


「気持ちは嬉しい。でもどうしてそこまでしてくれるの? 私たちは今日たまたま出会っただけ。なんでここまで……」


 ヨルは今まで悪意に触れ続けていた。

 吸血鬼に襲われ、家族と故郷を奪われ、自分の体も変えられた。

 更に助けに現れた人間は自分の命を狙ってきた。他人を信じられなくなっても無理はない。


 俺だって国を追われた後、出会ったのが悪人だったらそうなっていたかもしれない。出会ったのがリリアやソラだったからそこまでにならずに済んだ。


「……俺もヨルと同じなんだ。酷い目に遭って、故郷を追われてこの森に来た」


 そう言うと、ヨルは驚き目を見開く。


「あなたも……」

「ああ。俺の場合は何かに襲われたっていうんじゃなく、家族に見限られたんだけどな」


 自分で言っておいてなんだが、俺ってかなり悲惨な目に遭ってるな。

 今こうして楽しく暮らせているからこんな忘れてた。


「まあだから似たような境遇のヨルを他人とは思えないんだよ。お節介に捕まったと思って世話を焼かせてくれ」

「……わかった」


 ヨルはこくりと頷き、スプーンを手に取る。

 どうやらひとまずは納得してくれたみたいだ。


「いただきます」


 きらきらと光るスープにスプーンをつっこみ、すくう。

 そしてそれをゆっくりと口に含み、飲み干した。


「……」


 ヨルは無表情のまま、何も言わない。

 どうしたんだろうと不安になって見守る俺とリリア。


 すると彼女は再びスプーンですくい、スープを飲む。

 そして今度は前回より速いスピードで、三口目を口に運び……目から大粒の涙をこぼした。


「ヨル……」


 俺たちが見守る中、彼女は泣きながらスープを口の中にどんどん入れていく。

 どうやら気に入ってもらえたみたいだ。俺とリリアは小さく手を叩きあい成功を喜ぶ。


「ゔぅ……おいしぃ……あたたかい……」


 その涙は地獄から解放された安堵か、それとも大切な人を失った悲しみからか。

 部外者である俺からは分からないが、きっとヨルは今自分の気持ちに折り合いをつけているんだろう。


 いっぱい食って、泣いて、寝ればきっと心も落ち着くはずだ。今後のことはそれから決めても遅くはない。


「じゃあ俺たちも食べるとするか。食事は賑やかな方が楽しいしな」

「はい! 私よそいますね!」

「ソラ、おなかすいたー」

「わふっ!」


 新しい仲間とともに俺たちは食卓を囲む。

 その日の食事は夜遅くまで続き、楽しく騒がしい、記憶に残るものになったのだった。

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