王家から追放された俺、魔物はびこる森で超速レベルアップします。最弱スキルと馬鹿にされた『鑑定』の正体は、全てを見通す『神の目』でした
熊乃げん骨
第一章 飛ばされて大森林
第1話 勘当
「王子、貴方のスキルは……【鑑定】です」
「え……っ?」
神官の告げた言葉が信じられず、俺は呆然と立ち尽くす。
俺のスキルがあの【鑑定】だって? 信じられない!
「も、もう一回やってくれ! そんなわけがない!」
「リッカード殿下。申し訳ありませんが宣託の結果は絶対、何度やっても変わりありません」
「しかし!」
この国では十七歳になると「宣託の儀」を受ける決まりがある。
そして神より賜った『
スキルは大きく『職業系』と『技能系』に分けられていて、俺が手にした【鑑定】と呼ばれるスキルは、技能系スキルの中でも『最弱』と呼ばれている。
このスキルは対象の『名前』が分かるだけのハズレ能力、ほとんど役に立つことはない。
それにこのスキルを持つ人はたくさんいるので希少性すらない。
「……残念だ」
後ろから聞こえる声に、体をビクリと震わせる。
ゆっくりと背後を見ると、そこにはこの国の国王……俺の父親がいた。
「ち、父上。これは」
「言い訳など聞きたくはない。全く嘆かわしいことだ。兄は【賢者】、姉は【聖女】のスキルを得たというのに、まさかよりにもよって【鑑定】とはな。そんな王族、聞いたことがない」
「ぐ……っ」
父上が呆れるのも当然だ。
王族は強力なスキルを持つことが多い。賢者や剣聖、聖女に魔導師などがそれに当たる。
魔導師になれば強力な魔法を使えるようになるし、剣聖になれば剣の達人になることが出来る。
だけど俺に与えられたスキルは【鑑定】だった。
なんの役にも立たないハズレスキルだ。どんな罰を受けるのか考えるだけで恐ろしい。
「父上、私にチャンスを……」
「もうよい、この無能め。アガスティア王家に弱者はいらぬ。我が愚息、リッカード・アガスティアよ、今日を持って貴様を王家より勘当する!」
「そん、な……」
あまりのショックに視界が黒く染まる。
王家からの勘当、それは実質的な死刑宣告に他ならないからだ。
俺は第二王子。王位を継ぐ可能性が低いとはいえ、それでも王家の恥にならないよう今まで必死に努力してきた。
それなのにこんな宣託ひとつで人生が狂ってしまうのか!?
「そんな横暴、許されるはずがありません! 正当な理由もなく、そんな理由で……」
「理由などいくらでも後からつけることが出来る。そうだな、この前大臣が一人謎の死を遂げていたな。それをお前がやったことにしよう」
「なん、ですって……!?」
あまりにもめちゃくちゃな父上の言葉に、俺は絶句する。
父上は我を通すためであれば手段を選ばないことは知っていた。でもこれはあんまりだ。
なんで俺が殺人の罪を着せられなきゃいけないんだ!
「この大罪人をあそこに連れて行け。もう顔も見とうない」
父上がそう言うと、甲冑に身を包んだ近衛兵が俺を取り押さえようとしてくる。
抵抗しようとするが、相手は戦士系スキルを持った一流騎士。俺の力じゃ相手の名前を調べることしか出来ない。
「く、そ……」
あっという間に手枷を嵌められた俺は王城の地下に連れて行かれる。
こんなとこ来たことがない。いったいどこに連れて行くんだ?
「この先に処刑室でもあるのか?」
「…………」
騎士は答えない。
話すことを禁じられているんだろうな。
「だったら……【鑑定】」
騎士の顔を見ながらスキルを発動する
すると空中に文字列が浮かび、騎士の情報を見ることが出来た。
【ダズ・デッカード】
レベル26
スキル:剣人(剣の扱いが上手くなる)
アガスティア王国の騎士。最近娘が生まれた。
これが【鑑定】の力か。文字が見えるなんて不思議な力だな。
いったいどういう仕組みの力なんだろうか、などと考えていると、俺はあることに気がついた。
「……ん?」
なんかやけに情報が多くないか?
【鑑定】は対象の名前しか見れないと聞いたのだが。
それに『レベル』という聞き慣れない単語も気になるな。なんだこれは?
ひとまず分かるところから答え合わせしてみるか。
「……最近娘が生まれたのか?」
「な、なぜそれを!?」
そう言ったあとダズとやらは慌てて口を押さえる。
どうやら娘が生まれたのは本当みたいだ。
「レベルは26、違うか?」
「なにを訳の分からないことを。さっさと進め!」
ふむ。レベルはこいつも知らないようだ。
だけど他の情報は正しそうだから、スキルの故障とかではないと信じたい。
「ここだ、入れ」
地下深くの一室に無造作に放り込まれる。そして部屋の中央部にある足枷を嵌められ動けなくさせられる。
壁も床も冷たくゴツゴツした石で出来ている。まるで牢屋だ。
「もしかしてここに監禁するつもりか?」
「安心してください、
三人いる騎士たちはみなニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべている。
前から思ってたけど最近の騎士は質が落ちている。昔はこんなゴロツキみたいな騎士はほとんどいなかったのに。
「この部屋は『転移部屋』なのですよ。王家に相応しくない者が生まれた時、手を汚さずに処分するためのね」
「……なんだって!?」
ここにいたら危ない。
急いで部屋から出ようとするが、足枷のせいで動けない。
なにか逃げる方法はないかと必死に頭を巡らせていると、一人の人物が部屋に入ってくる。
「無駄だ弟よ。諦めた方がいい」
「兄上……っ」
入って来た金髪の美青年は俺の兄でありこの国の第一王子、フィリップス・フォン・アガスティアだった。
兄上は俺のことを冷たい目で見ている。まさか――――
「兄上も私を殺すことに賛成なのですか!?」
「……ああ。国王である父上の決定は絶対。それに出来損ないの弟がいれば次期国王である私の名にも傷がつく。当然の処置だ」
「そん、な……」
確かに俺と兄上は、それほど仲がいいわけじゃなかった。
でも家族だと、大変な時は助け合える存在だと思ってたのに。
兄上、いやフィリップはそんなこと思っていなかったんだ。
クソ、クソ……!
「お前がこれから転移する場所は『魔の森』の異名を持つパスキア大森林。そこには凶悪な魔物が数多く生息していて、一流の冒険者でも生き抜くことは厳しい環境だ。頑張ることだな」
フィリップがそう言って部屋を出ると、床の魔法陣が光りだす。どうやら転移魔法を発動したみたいだ。
「さらばだ弟よ。王国のことは私に任せて安心して逝くがよい」
「待っ……」
扉の向こうの兄上に必死に手を伸ばす。
しかしその手は何もつかむことはなく……俺の意識は光の中に消失した。
◇ ◇ ◇
「ん、んん……」
痛む体をさすりながら起き上がる。
目の前に広がるのは一面の木、木、木。どうやら本当に転移してしまったみたいだ。
「ここがパスキアの大森林、か」
その名前は俺も知っている。
アガスティア王国東部にある巨大な森林で、隣国まで広がっている。
その中には凶暴な魔獣が跋扈していてほとんど人は立ち入らない。しかし森の中には貴重な薬草や鉱物があると言われているでの、時折命知らずな冒険者が入るという。
もちろん帰ってきたものはほとんどいないらしいが。
「……ジッとしてても仕方がない。ひとまず歩いてみるか」
だけどどこに?
見る限り森のだいぶ深い所に俺は飛ばされた。数時間歩けば抜けられるなんて甘い考えは捨てたほうがいいだろう。
ちなみに付けられていた枷はなくなっていた。転移の対象に入ってなかったみたいだ。
「それにしても、まさかこんなことになるなんて……」
考えないようにしていたけど、捨てられた悲しみがじわじわと心に広がっていく。
父リガルドと兄フィリップから愛されていないのは分かっていた。
魔法も使えず、剣の腕もない。武力こそ正義のアガスティア王国において俺は出来損ないの王子だった。
せめて他のところで役に立てればと政策に口を出して成果を出したりはしたが、父上はそれを褒めてはくれなかった。
いわく王とは君臨するもの。らしい。
政治は臣下に丸投げの父上らしい言葉だ。
優しい母上が生きていればこうはならなかったと思うけど、そんなもしものことを考えても事態は好転しない。
しばらくみっともなく涙を流した俺は、乱暴に目を拭い覚悟を決める。
アガスティア王国第二王子リッガード・アガスティアは死んだ。その名前はここで捨てよう。
ただ全く新しい名前にするのも面倒だ。愛称であるリックはそのまま使って、姓は死んでしまった母上のザラッドを使わせてもらおう。
「リック・ザラッド。よしこれからはそう名乗るぞ」
まあ名乗る相手に出会えるのかという問題はあるが。
今の俺は王族でもなんでもないただの人間。なりふりは構っていられない、みっともなくても生き延びてやる。
頭を切り替えるんだ。今やらなきゃけないことを考えろ。
「ひとまず一番は食べ物と飲み水の確保、そして次に雨風をしのげる場所を探さないと」
読んだ本で冒険家がそう言っていた覚えがある。
もしかしたらあれは
「何か食べれるものがあるといいけど」
さっそく辺りを見渡してみるけど、どれが食べれるものなのかさっぱり分からない
草はたくさん生えてるけど、適当に食べるのは危険過ぎる。毒草なんて食べてしまったら一発でアウト。死んでしまうだろう。
だから気をつけないと……って、あ。
「そうだ【鑑定】すればいいんだ」
俺のスキルは【鑑定】。
それを使えば物の名前を知ることが出来る。名前さえ知ることが出来れば毒があるかも見分けが付きやすくなるはず。我ながら名案だ。
「よし、【鑑定】!」
適当に生えてる植物に向ってスキルを発動する。
するとスキルが発動して文字が浮かび上がる。
【イチコロ草】
ランク:D
猛毒を持つ植物。
触るだけで皮膚がただれ、焼けるような痛みに襲われる。
「のわっ!?」
危ない! もう少しで触ることころだった!
こんな危険なものが普通に生えてるなんて、さすがパスキア大森林。恐ろしい場所だ。
「先に【鑑定】しておいて良かった……って、ん? そういえば【鑑定】は名前が出るだけのスキルのはずだよな。ランクとか説明文まで出たぞ?」
城で騎士に使った時も色々な情報が出た。
もしかして俺の【鑑定】は普通の【鑑定】とは違うのか?
「そうだ。自分に【鑑定】を使ってみたら何か分かるかもしれないな」
物は試しだ自分の体を目標にスキルを発動してみる。すると、
【リック・ザラッド】
レベル:6
スキル:鑑定(対象の名前を見ることが出来る)
王家を追われた元王子。
少し衰弱している。
やかましわい。弱っているのは俺が一番良くわかっているわ。
……いや、今引っかかるのはそこじゃない。
「やっぱり名前だけじゃなく色々な情報が見れるな。でもスキルは【鑑定】と表示されてるし……ん?」
よく見ると【鑑定】の文字が少しぶれている。スキルの故障か?
そう思ってスキル欄をじーっと見ていると、【鑑定】の文字がパリン! と割れて、その下から違う文字が現れる。
そこに書かれていたのは、
スキル:神の目(全てを見通す神の権能。その力は過去、そして未来にすら干渉する)
「神の目、だって……!?」
神の名を冠するスキル、それは数千年に一度しか現れないと言われている。
まさかそんなものが俺に宿っていたなんて!
「【鑑定】は
沈んでいた心が、湧き立ってくる。
この力を使って必ず生き延びてやる。俺は一人そう誓うのだった。
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