第3話 弓作り

 弓の試し撃ちをした俺は、家に戻ってきていた。


 まだ手には弓を打った時の感触が残っている。

 集中して狙いをつけるあの感覚……悪くなかった。正直剣とかよりずっと体に馴染んだ。


 今はもう自分の弓が欲しくて仕方がない。

 でも倉庫に弓はなかったんだよな……。となると自分で作るしかないか。


「リリアたちの弓は自分で作ったのか?」

「はい。私たちには自分で使う弓は自分で作るという習わしがあります。私もお父さんに教えてもらったんですよ」

「へえ。じゃあ教えてもらってもいいか? 俺も弓が作りたいんだ」


 そう頼むと、リリアは嬉しそうに「任せてください!」と胸を叩く。

 頼もしい先生が出来たな。


「弓の作り方には、一本の木材を切り出す方法と、数種類の木材を組み合わせる方法があります。私たちは一本の木材を切り出す方法を多くとりますが、リックさんはどうしたいですか?」

「俺もその方法でやるとするかな。まずはシンプルな方法を学びたい」

「わかりました! 任せてください!」


どんな弓がいいかを話しながら、俺たちは鍛冶部屋に入る。

 今回鍛冶作業はしないだろうが、ここには様々な工具がある、作業にはうってつけだ。


「どの木材が弓に適しているのかとかあるのか?」

「はい。私たちは主にホアバの木を使います。軽くてよくしなる、いい弓が作れるんです」

「へえ、じゃあ俺もそれにするか」


 しかしリリアは俺の言葉にふるふると首を横に振った。


「ホアバの木は柔らかいので、リックさんには合わないと思います。リックさんの怪力にも耐えられるもっと硬く丈夫な木を選んだほうがいいです」


 確かにリリィの弓は柔らかくて思い切り引くことが出来なかった。あれじゃあ俺の全力は出せない。


「じゃあどれならいいと思う? 材料なら色々あるぞ」


 工房の机に集めた木材を並べていく。

 アオシアの木、トロルツリー、マジックウッドなどなど。この家の周辺にある木材は一通り集めてある。


 リリアはそれらをじっくり観察する。

曲げたり叩いたりしてそれぞれの特性を確認すると、一つの木材を選んで俺の前に出した。


「これがいいと思います。少し硬くて引きづらいですが、頑丈でしなり・・・もあります」

「これは……トロルツリーか。よし、これでやってみるか」


 トロルツリーは、その名の通りトロールの皮膚のように硬い木だ。

 確かにこれなら多少強く引いても壊れることはなさそうだ。


「ではまずどれくらいの長さの弓にするか決めて、それから削り出していきましょう! 私がつきっきりでお手伝いしますのでご安心ください!」

「ああ、頼りにしてるぞ」


 弓は短いよりそこそこ長いほうが良さそうだ。

 持ち歩く時は『次元神の小鞄ポーチ』にしまっておくだろうから、持ち運びが悪くても問題ないからな。


 大きさと形を決めた俺は、さっそく削り出す作業に入る。


「よし、やるか!」


 手にしたのは鋭利なナイフ。

 これは『狩猟神の短刀』。決して折れず、欠けず、錆びず、そして切れ味が落ちない夢のようなナイフだ。


 もっぱら肉をさばく時に使っているが、木材も問題なく切れる。

 これで俺だけの弓を作ってやる。

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