第24話 神の目

「あが……が……」


 俺が吹き飛ばした自称『神の目』の持ち主は、すっかり伸びていて床を舐めていた。

 これなら逃げられることもなさそうだな。


「リンは大丈夫か?」

「は、はい! 大丈夫です!」


 見たところリンに目立った怪我はない。

 だけど顔が赤いし、息も荒い。それほどキツい戦いだったんだろうか。


「息が切れてるし疲れてるんじゃないのか? 回復薬ポーション飲んどくか?」

「いえ! これはそういうあれではないので大丈夫です!」

「そ、そっか」


 どういうあれなのかは分からないが、いいと言うならいいか。

 さて、これで邪魔者は全部倒したみたいだし、さっさと目標を達成するとしよう。


「伯爵が奴隷商売をしていたことを証明できる証拠は見つかったのか?」

「はい。書類は確保してあります。これだけあれば十分だと思います」

「そうか、それは良かった。じゃあ地下にいるエルフたちを解放してきてもらえるか? 姿を確認して、治療はしたけどまだ地下にいるんだ」


 地下には数十人のエルフが囚われていた。

 幸運なことに捕まったエルフはまだ一人も売られていなかった。どうやら一つの商売先にまとめて売りに出すつもりだったらしい。

 色んなところに売れば、それだけ足がつきやすくなる。ムカつくが賢いやり方だ。


 地下は埃っぽくて暗くて狭いという劣悪な環境だったけど、エルフ達は大きな怪我もしていなかった。

 ただ衰弱しているエルフが少しいたので、回復薬ポーションを分けてきた。

 今頃は動けるようになっているだろう。


「分かりました。では地下に向かいます」

「ああ、よろしく頼む」


 囚われたエルフ達の救助をリンに任せ、俺は倒れている自称『神の目』の男のもとに行く。

 男は必死に這って逃げようとしているが、全身の骨が砕けているためまともに動くことは出来ていなかった。


「おい」

「ひいっ!?」


 話しかけるとそいつは怯えた声を出す。

 まああれだけ派手に痛めつけたらそうなるか。


「聞きたいことがある。答えてもらえるか?」

「な、ななななんでしょうか?」


 男は汗をダラダラと流しながら首を縦に振りまくる。

 そんな怯えなくても命まで取るつもりはないんだけどな。王国には引き渡すけど。


 っと、それよりもあのことを聞いておかないとな。

 引き渡したらもう話も出来なくなるだろうしな。


「お前、なんで『神の目』を名乗っていたんだ? どこでその名前を知った?」


 こいつのスキルは『千里眼』だ。

 『神の目』ではない。


 スキル名を騙るのは分かる。

 自分の強さを大きく見せたいから虚偽のスキル名を言うのは想像が簡単につく。


 そこはいい。

 でもこいつが言ったスキル名が問題なんだ。


 なんでこいつは『神の目』の持ち主ではないのに、そのスキル名を知っているんだ?


「そ、その方が都合がいいからだ。『神の目』の持ち主だと言うと、『神眼教』の奴らが勝手に崇拝してくれるからな」

「神眼教……?」


 聞き慣れない単語に首を傾げる。

 いや……待てよ。そういえば前に聞いたことがあるかもしれない。


「神眼教……確かそんな名前の宗教があったような。それのことか?」

「あ、ああ。そいつらは『神の目』と呼ばれているものを崇拝している。だから俺はそれの持ち主だと喧伝したんだ。そうすればいずれ奴らから接触があると思ってな」

「なるほどな。だけどその『神眼教』と繋がれてそんなに得があるのか?」


 確か『神眼教』はそれほど大きな組織じゃなかったはず。

 俺もその存在をつい先程まで忘れていたほどだ。


「くく、確かに『神眼教』は小さな組織だと思われているが……それは『表』の話だ」

「なんだって?」

「『神眼教』は国クラスの力を持つ組織だ。それを知っているのは『裏』の中でも限られた存在だけどな」



 くく、と男は笑う。

 神眼教……か。そいつらの信仰する『神の目』と俺のスキル『神の目』が同一の物かは分からないけど、無関係とは考えづらい。


 いつか調べたほうがいいかもな。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《お知らせ》

本作の書籍化が決まりました!

詳細は追ってお伝えしますので、楽しみにお待ち下さい!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る