第14話 黒髪の依頼人

 メイド服を着た黒髪の女性、リン。

 ソフィアはその人物が只者でないと一目で分かった。


(ただ立っている、それだけなのに隙がなさすぎる……! それにこの威圧感、少なくとも『金等級ゴールド』クラスの実力はありそうね……)


 冒険者のランクは上から『神金級オリハルコン』、『白金級プラチナ』、『金等級ゴールド』、『銀等級シルバー』、『銅等級カッパー』、『鉄等級アイアン』と計六つに分類されている。


 ソフィアの等級、金等級ゴールドはかなりの実力を持たないと到達出来ないランクであり、上位数パーセントの冒険者しか金等級ゴールド以上にはなれない。

 つまりリンは多くの冒険者より圧倒的に強い、ソフィアはそう判断した。


「まずは謝罪させていただきます。連絡をすることが出来ず申し訳ありませんでした。初回の捜索は様子見で終わらせる予定でしたが、モンスターに襲われてしまい森の深くまで入ってしまったせいで帰還するのに時間がかかってしまいました。私の落ち度です」


 ソフィアはそう言って頭を下げる。

 普段はぶっきらぼうな口調の彼女だが、もとは貴族の生まれ。相手によっては丁寧な口調で喋ることも出来た。


 彼女の謝罪を受けたリンは、しばらく黙った後、口を開く。


「いえ、謝罪するのはこちらの方です。貴女には申し訳ないことをしました」


 そう言ってリンは、小さな袋を机の上に置く。

 ジャラ、という金属音。袋の中には銀貨が数十枚入っていた。


 心当たりのないお金にソフィアは首をかしげる。


「これは……?」

「本来貴女に支払うはずでした前払金の残り・・です。どうぞお納めください」

「へ? いや、ですが……」


 急に残りと言われても何のことか理解出来ない。

 ソフィアはどういうことだという気持ちとお金が欲しいという気持ちの板挟みに合う。


 かろうじてその葛藤に打ち勝ったソフィアは手を引っ込める。それを見たリンは謎のお金の説明を始める。


「今回の依頼を、私は昔の伝手を使い極秘に行いました。死んだはずの王子の捜索、もしこれが王の耳に入れば大変なことになります」

「それは……そうですね。あ、私はもちろん誰にも漏らしていませんよ!」


 もし漏らしてしまえば恨みを買うだけでなく、冒険者としての信用が失墜してしまう。

 一時の金に釣られてそのリスクを冒してしまうほど彼女は愚かではなかった。


「ええ、分かっています。貴女は信用のおける方だと組合の方もおっしゃっていました」


 その組合の人というのはリズのことだろうとソフィアは考えた。

 リズは昔から家を飛び出し一人で生活しているソフィアのことを案じていた。組合の人間としては良くない行動なのかもしれないが、いい報酬の仕事があると優先的に教えてくれたりしていた。

 ソフィアは心の中で何度目になるか分からないお礼の言葉を言う。


「問題があったのはこちらです。この任務のことを知ったパスマリア支部の人間は、あろうことかこの任務をバラされたくなければ、もっとお金を寄越せと強請ゆすりをかけてきました」

「え……!?」


 想像だにしていなかった話に、ソフィアは絶句した。

 依頼人の守秘義務を重んじる、それは冒険者組合の基本理念だ。強請りをかけるなどもってのほかだ。

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