第10話 行動開始

 王都アルガード。

 俺が生まれ育った故郷だ。


 とはいえ俺は城の外に出ることは少なかったので、城下町のことはあまり知らない。

 常に人がたくさんいて、活気に満ちていると聞いたことはあるけど。


「エルフを連れ去った奴が王都にいるのは、間違いないんだな?」

「はい。仲間が連れ去られるところを見たエルフの一人が、尾行して得た情報らしいです。連れ去られた人は王都の大きな建物の中に入れられたと聞きました。その建物は厳重に守られていたので助けるのは諦め、情報を持ち帰ってきたそうです」

「そうか……賢明な判断だな」


 助けに行って自分も捕まっては元も子もない。

 そのエルフは冷静な判断を下せる人物だな。


「リシッドさんはどう考えているんだ?」

「父は救出作戦には反対しています。王都は人間の街、エルフ達で乗り込めば問題になると」

「そうだな。最悪王国兵と戦闘になる可能性もある」


 いきなりたくさんのエルフが街に入ってくれば、戦闘をしかけてきたと勘違いするだろう。

 そうなれば父も黙っていない。王国兵を動員して戦闘になるのは間違いない。


「王国にそのことを密告するか? いや、それは意味ないか……」


 一応王国は表向き奴隷制度を廃している。

 だがそんなのいくらでも抜け道はある。

 エルフは人間と扱わないことにしたり、奴隷ではなく捕虜という建前にしたり、相手が人間じゃないのであればいくらでも手はあるだろう。


 だから王国にエルフを捕らえた奴らのことを密告しても効果的とは思えない。なにかもっとあくどいことをしていて、その証拠でもつかめれば話は別だけど。


「どうすればいいんでしょう……」


 目を伏せ、力なく呟くリリア。

 仲間が誘拐されたのに、助けることも出来ないのだから落ち込んで当然だ。


 正直また王都と関わるのは気乗りしない。

 二度とあそこに足を踏み入れたくはなかった。だけど、


「俺に任せろ。エルフは俺が救ってみせる」


 それは家族を見捨てる理由にはならない。

 俺はリリアの頭に手を置き、安心させるように言った。


「リックさん……お願いしてもいいんですか……?」

「当然だ。全部俺に任せな」

「……ありがとうございますっ!!」


 抱きつき、俺の胸に顔を埋めるリリア。

 その体は細かく震えている。不安だったんだろうな。


 まずはリリアの父親、リシッドさんに会いに行かなくちゃな。

 そう考えていると部屋の奥からヨルが姿を表す。


「……話は聞いてた。もちろん私も行く」

「ありがとう。助かるよ」


 ヨルとは何度か一緒に狩りに行ったことがあるが、正直かなり強い。

 今まで戦闘をしてこなかったせいでレベルこそ最初は低かったけど、俺と一緒に戦う内にみるみるレベルが上がり、吸血鬼としての力を開花させていった。


 今ならあの吸血鬼狩りヴァンパイアハンターに狙われても返り討ち出来るだろうな。


「ぼくもいくよ!」

「わんっ!」


 ソラとベルも元気よく声を出す。

 二人とも前より強くなっている。ソラは見た目は変わってないけど、ベルは結構大きくなり、大型犬くらいのサイズになった。

 力も強くなっているので俺を背中に乗せて走ることも出来る。


「よし。じゃあまずはリシッドさんに話を聞きにエルフの村に行こう」


 俺の言葉にみんなうなずく。

 こうして俺たちは囚われたエルフを救うため、行動を開始するのだった。

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