第11話 エルフの村にて

 森の中を駆け抜け、俺たちはエルフの村『パスキオール』にたどり着いた。


 俺が初めて来た時は、大量のオーガに襲われていたので村はボロボロになっていたこの村だが、今はすっかり立て直し綺麗な村になっている。


 俺とヨルはわりと頻繁に遊びに来ているので、この村のエルフ達とはすっかり仲良くなっている。俺達にとってはこの村は既に第二の故郷ふるさとみたいなものだ。


「さて、リシッドさんは……あそこか」


 リリアの父親でありここのエルフ達の族長である彼を見つけ、近づく。

 リシッドさんなら今回の一件の詳しい情報を知っているはずだ。まずはそれを聞こう。


「……ん? あれは誰だ?」


 近づくとリシッドさんが誰か知らない人と話しているのが見えた。

 褐色の肌をした、とても綺麗な女性だ。

よく見るとエルフと同じくとがった耳を持っている。ということはまさか……


「ダークエルフか?」


 褐色の肌を持つエルフ、ダークエルフ。

 エルフより魔法能力は劣るが、その代わり高い身体能力を持つ、と本で見たことがある。もちろん生で見るのは初めてだ。

 ダークエルフは普通のエルフより数が少ない希少種族だと聞いたことがある。まさかこんなところで会えるなんてな。


「リシッドさん」

「ん? ああ、リックじゃないか。どうしたんだ?」


 話しかけるとリシッドさんはダークエルフの女性との話をいったん止め、俺の方を見る。


「リシッドさん。こちらの女性は?」

「紹介しておこう。こちらの女性はレイラ殿。パスキアの大森林に住むエルフの一人だ」

「……君がリシッドの言っていた人間か」


 レイラという女性は俺のことを鋭い目でジロジロと見る。

 人間ということで警戒はしているみたいだけど、今のところ敵意は感じない。リシッドさんがちゃんと説明してくれてたんだろう、助かる。


「リック。来てくれたところ申し訳ないが、今色々と忙しくてね……」

「事情なら知っている。助けに来たんだ」

「なんと! それはありがたい……が、しかしこれはエルフの問題。君に押し付けるわけには……」

「そんな水臭いこと言わないで下さいよ。俺たちは『家族』でしょう?」


 俺がそう言うと、リシッドさんはしばらく悩んだ末「……ではお願いしてもいいか?」と言った。

 よし、これで思い切り手を貸すことが出来る。


「ちょっと待て。その者を王都に行かせるというのか?」


 そう割り込んできたのはダークエルフのレイラだった。

 刺さるような鋭い視線を俺とリシッドさんに向けていてる。


「もし失敗したら仲間を助ける機会はなくなるだろう。それなのにエルフではなく人間に任せるというのか?」


 確かにこの人の言う通り、一度失敗すればせっかく突き止めたエルフの隠し場所も変えられてしまうだろう。部外者である俺に任せるのは不安だろうな。


「あんたの怒りはもっともだが、ここは任せてほしい。俺は人間だから王都に入るのも楽だし、心強い伝手つてもある」

「……確かにそなたの話は一理ある。では力を見せてほしい。我々夜の戦士、ダークエルフを凌ぐ力があるというならその話を飲もうじゃないか」

「分かった。それであんたが納得してくれるなら喜んで」


 レイラは固そうな見た目に反して柔軟な考えの持ち主だった。これならなんとかなるかもしれない。


 しかし「力を見せる」か。

 何をすればいいもんか。


「……あ」


 俺は近くに手ごろな岩を発見する。

 これなら壊しても文句は言われないだろう。


「よっと」


 影のマントを出現させ、身にまとう。

 そしてその一部を刃にして思い切り岩に叩きつける。


 影の刃は並の剣よりずっと鋭く、硬い。

 岩は綺麗に両断され、真っ二つになる。これで認めてもらえるかな?


「な……あ……!?」


 振り返るとレイラは声を失うほど驚いていた。

 口を開け、目を見開き俺のことを見ている。……なんだか驚きすぎじゃない?


 俺が不思議に思っていると、突然レイラはその場にひざまずき、こうべを垂れる。

 い、いったいどうしたんだ!?


「その影を操る力……も、もしや貴方様は夜の支配者ナイトロードであられますか!?」

「え、いや、そうだけど」

「やはり!」


 レイラはキラキラした瞳で俺のことを見る。

 なんで夜の支配者ナイトロードのことを知ってるんだ?


「我らダークエルフは夜の戦士。夜を統べる夜の支配者ナイトロード様の忠実な下僕しもべでございます。まさかこの時代に誕生なされていたとは……光栄の極みでございます」

「は、はあ」


 レイラの話を聞くと、彼女たちダークエルフは夜の支配者ナイトロードを信奉しているらしい。過去夜の支配者ナイトロードと共に巨大な敵と戦い、そして勝利を掴み取って伝説が残っているという。


 しかし夜の支配者ナイトロードは滅多に現れることはないあらしい。

 なので今はエルフ達と共に生き、再び主と出会える日を心待ちにしていたらしい。


 彼らの忠誠心を利用するようで悪いけど、これは追い風だな。この状況、利用しない手はない。

 俺はなるべく威厳ある喋り方……不本意だけど父の喋り方を思い出しながらレイラに話しかける。


「……その忠義、ありがたく受け取るとしよう。私はこれからエルフの救出に向かう。ダークエルフの力、貸してもらえるだろうか?」

「は! もちろんでございます! この力、ロードに全てお捧げいたします!」


 こうして俺は新たな戦力とともに王都へ向かうのだった。

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