第16話 宴
その日の夜、エルフ達は大きな宴を開いた。
まだ壊れた家は直ってないし、傷が癒えてない人もいるけど、それでも勝利を喜ぶことは大切だ。
被害はあったけど彼らの多くは生き残り、今後もこの森で生き続けることが出来るのだから。
「リック殿! こちらを召し上がってください!」
「喉は渇いておりませんか!? エルフの秘蔵酒、ぜひご賞味あれ!!」
俺はその宴で熱烈な歓迎を受けていた。
オーガを倒した直後は、突然現れた俺を怖がっている人もいたけど、その後の復旧作業を手伝っている内にその壁もなくなった。
今では英雄のようにちやほやされている。むず痒いが悪い気分じゃない。
「うん、このお酒美味しいですね。爽やかなハーブの香りがとてもいい。エルフがこのような物を作っているとは知りませんでした」
「ははは、そのお酒は人里に降りることはまずないですからね。お気に召していただけたようで嬉しいですよ。樽で持って帰りますか?」
「……では瓶でいただけますか? それだけあれば保ちますので」
さすがに樽を空けるほど酒豪ではない。
それに一人で飲んでも寂しくなるしな。ソラはまだ子どもだから飲ますわけにもいかないし。
「それにしてもこんな賑やかな食事初めてだ。いいもんだな、こういうの」
王都にいた頃は、毎日高級な料理が並んだ。
しかし食事中はほとんど会話がなく、常に重い空気が流れていた。母上がいた頃はそうじゃなかったけど、亡くなってからは毎日葬式みたいな空気だった。
そんなところで食っても味なんてほとんど感じない。今の食事のほうがずっと美味しく感じる。
と、そんなことを考えているとソラがきょろきょろとしていることに気づく。何か気になるのか?
「どうしたソラ」
「あ、えっと……さっき、そこの子が、ぼくにあそぼって」
「ああ。なるほど」
村の復旧作業をしている時、ソラがエルフの子どもに話しかけられているのを見た。その時に後で遊ぼうと声をかけられたみたいだ。
「もちろん行ってもいいぞ。寝る時はちゃんと帰ってくるんだぞ」
「うん! ありがとリック!」
ぴょんぴょんと跳ねながら、ソラは子どもたちの集まっている場所に向かう。
そこらのモンスターよりずっと強いソラだけど、まだまだ心は子ども、遊びたい盛りだ。子どもと遊ぶのはいい経験になるだろう。ぜひ友達をたくさん作って欲しい。
「……と、なんだか父親にでもなった気分だな。」
そうボヤきながら料理を口に運ぶ。
一応十七歳にもなれば家庭を持つ男性も多い……らしい。城に引きこもっていた俺は普通の市民の暮らしとふれ合う機会が少なかったから、知識は全て本や使用人の話だけだ。
せっかく自由の身となったのだから、街に行ってみるのもいいかもな。
森での暮らしは楽しいけど、街でしか体験できないこともある。
……よし。レベル100を超えたら街に行ってみよう。そこまで強くなればどんなトラブルに遭っても生きて帰ることが出来るだろう。
そんなことを考えていると、エルフの一人が俺のもとにやってくる。
「リック様、お食事中のところ失礼します」
「ん? どうしたんだ?」
「長がリック様に来ていただきたいと申しております。お手数ですがあちらまで足を運んでいただいてよろしいですか?」
「リシッドさんが? 分かった」
俺はエルフに案内されるまま、近くの小屋に入る。
家のほとんどは壊されてしまったので、木で骨組みを作り、葉で屋根を作っただけでの簡素な家だ。だけど風通しはいいので案外過ごしやすそうではある。
わりと作りもしっかりしてるし、簡単に壊れることはなさそうだ。エルフの木を扱う技術は人間より高いかもな。
「お体は大丈夫ですか?」
小屋に入り、中のベッドで横になっているリシッドさんに話しかける。
その隣には娘のリリアが座っている。
「お呼びだてすみませぬリック殿。本来であればこちらから足を運ばねばならぬところを……」
「構いませんよ。まだ疲れも残っているでしょう」
リシッドさんの傷はレッドポーションの効果により完全に癒えた。
しかしポーションで心の傷を癒やすことは出来ない。目の前で仲間を何人も失いながら戦い続けたリシッドさんはかなり精神を消耗してしまっていた。
俺はリシッドさんの隣に置いてある椅子に腰を下ろす。リリアとは逆側なので彼女と向かい合う形になる。
いったい俺に何の用があるんだろうか。
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