第17話 家族

「それでどうされたんですか?」


 そう尋ねると、リシッドさんは座りながら姿勢を正し、俺に深々と頭を下げた。とても一族の長が取っていい行動じゃない。俺は焦る。


「やめてください。俺みたいな怪しいやつに頭を下げるなんて」

「今頭を下げずして何が長でしょうか。貴方の身分が何であろうと私達を救って下さったのは紛れもない事実。その感謝を示すためであれば頭くらいいくらでも下げます」


 俺はその言葉を聞いて感動した。

 国王である俺の父上は絶対にこんな行動には出ないからだ。


 もし父上がリシッドさんみたいな人だったら、アガスティア王国もまともであっただろう。俺が追放されることもなく、平和に暮らせていたと思う。


 でもそんな未来はもう訪れない。今を生きて行くしかない。


「……その感謝、ありがたく頂戴します。では私から一つ、お願いをしてもよろしいでしょうか」

「はいもちろん。我々が出来ることであればなんでもおっしゃってください」

「ありがとうございます。俺はエルフの方々と『友人』になりたいのです。それを認めていただけますか?」

「……そんなお願いでよろしいのですか?」


 リシッドさんは驚き目を丸くする。

隣に座るリリアも「へ?」と首を傾げている。

 

「実は俺は故郷を追われ、森の中で一人……今はソラがいるので二人で暮らしています。そのせいで友人は他に誰もいません。もしエルフのみなさんと友人になれるのでしたらこれ以上嬉しいことはありません。ソラも皆さんのことが気に入っているみたいですしね」

「なんとそのような事情が……!」

「ゔう、リッグざんがわいぞうでず……」


 驚くリシッドさんと、大粒の涙を流すリリア。

 この人達は本当にお人好しだな。


「分かりました、そのような事情があるのであれば、ぜひ友人……いえ、迷惑でなければ我らの『家族』として迎え入れさせてください。きっと他の者たちも喜ぶでしょう」

「家族って、エルフじゃないのにいいんですか? 俺はただの人間ですよ?」

「確かに前例はありませんが、ないのであれば作ればいい。ぜひ貴方を我らの『名誉氏族』として迎え入れさせてください」


 そう言って差し出された手を、俺は迷うことなく握り返した。


「これで我々は『家族』です。いつでも帰って来てくださいね」

「わ、私も家族ですからね! たくさん遊びに行きます!」

「はい……ありがとうございます」


 こうして身一つで捨てられた俺に、新しい家族が出来た。

 帰る場所がある。それだけで俺の心はすっと軽くなるのだった。

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