第15話 終戦

 オーガジェネラルを倒すと、周りのオーガたちは途端に動揺し攻撃の手が緩まる。

 ボスがやられると戦意を失うのは獣もモンスターも同じみたいだな。


「今帰るなら見逃してやる。だがまだ戦うというのなら……貴様らの親玉と同じところに送ってやろう」

『グ、ググ……』


 オーガたちは少し悩んだ後、背中を向けて逃げ帰っていく。

 何体かは残った奴もいたが、数体であれば何の問題もない。エルフたちと協力して手早く処理をした。


「これでひとまず一安心か」


 神の目の力を使ってみたが、隠れているオーガの姿はない。

 戦いは終わったと見て良さそうだな。


「……ん?」


 エルフ達がいた方に戻ると、なにやらエルフ達が一箇所に集まっていた。

 その中心にはリリアがいる。いったいどうしたんだ?


「何かあったか?」

「リックさん! 父が……!」


 リリアは泣きながら俺に縋り付いてくる。

 どうしたのかと見てみると、なんとリリアの父であり族長のリシッドが胸から大量の血を流して倒れていた。

 息は荒く顔は青ざめていてる。どうやらオーガとの戦いで重傷を負ってしまったみたいだ。


「リック、殿……」

「喋ると傷が開きますよリシッドさん。安静にしてください」


 横になっているリシッドさんの側にしゃがみ込む。

 酷い怪我だ……斧で胸をざっくりとやられたみたいだ。


「村を……皆を助けてくださりありがとうございます。お礼をしたいのは山々ですが……私はもう逝かねばならぬみたいです」

「パパ! 死んじゃイヤ!」

「リリア……お前を残して逝くのは心残りだが……お前なら大丈夫だ。強く優しいお前なら」


 リシッドさんは最後の力を振り絞って娘の頭をなでる。

 その様子を他のエルフ達も涙ながらに見守る。


 この人達は本当に強い絆で結ばれている。形だけの家族だった俺の家族とは大違いだ。


 死んでほしくない。素直にそう思った。


「リシッドさん。これを」

「これは……?」


 俺が取り出した赤い液体の入った小瓶を見て、リシッドさんは首を傾げる。

 小瓶の蓋を開け、俺は傷口にその液体を豪快にかける。


 すると瞬く間に傷が塞がり、出血が止まってしまう。

 はは、さすが最高級の回復薬ポーションだ。効果は絶大だな。


「痛みが……引いた!? なんという回復力、こんなポーション見たことがない……!!」


 リシッドさんの顔に血の気が戻る。

 それを見たリリアは父親に飛びついて泣き、周りのエルフ達も頬を濡らしながら喜ぶ。


「まだレッドポーションは余裕がある。傷ついている人がいるなら使ってくれ」


俺はありったけのポーションを近くにいたエルフに渡す。


「いいのか? こんな希少なものを……」

「ああ、構わない。好きなだけ使ってくれ」

「……ありがとう、感謝する。貴殿は我々の救世主だ」


 深く頭を下げた後、そのエルフは去っていく。

 救世主、か。国を追われた王子にしては分不相応な称号だな。


 だけど悪い気分じゃない。無能の烙印を押された俺でも人を助けることが出来たのだから。


「オーガを撃退していただいただけでなく、傷まで直していただけるとは……なんとお礼をしていいものやら……」

「気にしなくて大丈夫ですよ。俺がしたいことをしただけですから」


 申し訳無さそうにしているリシッドさんに、俺はそう言うのだった。

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