第6話 地獄の番犬
「ちょっと! くすぐったいってば!」
「わふっ」
「……どうなってるんだこれは」
ソラのもとに駆け寄った俺は、奇妙な光景を見て首を傾げる。
「遊んで……いるようですね」
「リリアもそう見えるか」
ソラと謎の獣はじゃれあっているようにしか見えない。
どっちも楽しそうだ。
「なんだあれは? 黒い犬、か? 森にいたのが迷い込んで来たのか?」
「うーん。あんな獣見たことないですけどね。なんて種類なのでしょう」
森に長く住んでいるはずのリリアですらその獣を知らなかった。
しょうがない、ひとまず何て種類なのか調べてみるか。
「【鑑定】」
【ケルベロス(幼体)】
レベル:21
冥府に生息する地獄の番犬。
強靭な顎と優れた脚力を持つ。
通常三つの頭を持って生まれるが、稀に頭が一つの個体も生まれる。
「ケ、ケルベロスだって!?」
地獄の番犬、ケルベロス。
俺でも知っている有名な幻獣だ。
そんなもんがなんで俺の家に来ているんだ。
俺は見た情報をリリア教え、考えを聞く。ちなみに彼女に俺が少し特殊な能力を持っているのは既に伝えてある。
リリアは最初こそ「へ!? ケルベロス!?」と驚いたが、まだ幼体で力も強くないことを知り落ち着きを取り戻す。
「ケルベロス、ですか。そんなに珍しい生き物がこの森に住んでいるなんて話は聞いたことがありません。どうしてここに……」
「普通ケルベロスは頭が三つらしいけど、こいつは一つだ。それが関係あんのかな」
言いながらケルベロスに手を出す。
最初は警戒していたケルベロスだが、次第に近寄ってきて頭を手に擦り付けてくる。なんだ、可愛いじゃないか。
「わ、私もモフっていいでしょうか……?」
はあはあと荒い息遣いをしながらリリアがにじり寄ってくる。
許可するとおっかなびっくりながらもケルベロスを存分に愛で始める。ケルベロスという存在は怖いが、小動物を可愛がりたいという欲求には勝てなかったみたいだ。
しばらく堪能したリリアは、ケルベロスから離れて呟く。
「この子、もしかしたら捨てられたのかもしれませんね」
「捨てられた?」
「はい、体に切り傷のようなものがいくつか見られました。爪の形からすると同族である可能性が高いと思います」
「へえ、そんなことまで見て分かるのか」
エルフは視界の悪い森の中で狩りをする種族。
俺ほどではないが目がいい。
「この子は他のケルベロスより頭の数が少ないです。つまり……」
「捨てられた。もしくは迫害されていた、か」
「……はい。同族に故郷を追い出され、ここパスキアの大森林にたどり着いた。そう考えるのが一番自然です」
他の者と違う特徴を持った者、他の者より劣る者は、迫害の対象になる。
それは人も獣も同じだ。
俺だってそうだ。
王族の中で出来損ないだったから、捨てられた。目の前のこいつと同じだ。
そう考えると親近感が湧くな。
捨てられたのに目が死んでないのも好感が持てる。
「なあお前、強くなりたいか?」
しゃがんでケルベロスに目線を合わせ、尋ねる。
ケルベロスは俺のことを真剣な目でじっと見つめてくる。
「お前を追い出した奴を見返したいか?」
ケルベロスはしばらく黙った後、力強く「わふっ!」と返事をする。
どうやら覚悟は決まっているようだ。
「よし。じゃあお前もこれから俺の仲間だ。一緒に強くなって俺たちを馬鹿にした奴を見返してやろうぜ!」
「わふっ! わふっ!」
ケルベロスは嬉しそうに尻尾を振りながら俺の頬をペロペロと舐めてくる。
こうして俺たちにまた新しい仲間が加わったのだった。
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