第9話 楽しいレベル上げ
今まで過ごしてきた村が壊されていく。
焼かれ、壊され、蹂躙される度、心も音を立ててひび割れていく。
「はあ……はあ……」
息を切らしながら走るのは見目麗しい少女。
煌めく金髪に長いまつ毛。
細く引き締まった肢体と、それに見合わぬ大きな胸。男が見れば誰もが振り返り目を奪われてしまうだろう。
彼女は時折振り返りながら必死に森の中を走っていた。
泣きそうになる目にぎゅっと力入れながら。
『イタゾ! アッチダ!』
背後から聞こえるは恐ろしい声。
すくみそうになる足を必死に前に動かす。
「助けを……呼ばなくちゃ……」
こんな森の中に自分を助けてくれる人なんていないことは彼女も重々承知している。
しかし「助けを呼んできてくれ」と自分を送り出してくれた家族と仲間のためにも、彼女は走るしかなった。
「泣いちゃだめ……行かなきゃ……!」
彼女は走る。
その道の先に希望などないと理解していながらも――――
◇ ◇ ◇
木から木へ跳び移りながら森の中を駆け抜ける。
俺の眼下を走るは大きな牛。
名前は『メガバイソン』。レベル60の手強い相手だ。
俺はそいつを狩っている最中だった。
「追いついたぞ……っと!」
狙いを定め、
そしてメガバイソンの背中目がけ思い切り聖剣を振り下ろす。
『ビギィ!』
断末魔と共にメガバイソンは倒れ、アイテムを落とす。
ふう、逃げ回るから手こずったぜ。
俺は朝早くからモンスター狩り精を出していた。
モンスターを倒せばレベルが上がるしアイテムも手に入る。楽しくなってついつい狩り過ぎてしまう。
「お、いつの間にか俺のレベルも90まで上がってる。こりゃ100になる日も近いな」
そう呟きながらメガバイソンの落とした物を拾い上げる。
【猪突牛の高級霜降り肉】ランク:B
最高級の牛肉。
とろける脂が絶品
【猪突牛の牙】ランク:B
メガバイソンの太い牙
すり潰せば薬の材料になる
「うお! とうとう肉が出た! 今夜はご馳走だぞソラ!」
俺が喜ぶと肩に乗っているソラも嬉しそうにぷるぷると震える。
かわいい奴だ。
「そういえば敵を倒した時ソラも強くなるのか? 見てみるか」
【鑑定】を発動し、ソラの情報を見る。
【ソラ(スライム)】
レベル:47 状態:仲間
スキル:水刃、超振動
空色のスライム。人懐っこい。
お、ソラもかなりレベルが上がってるな。
スライムベビーから普通のスライムになってるし、もうそこらのスライムより強そうだ。
「……ん? ソラ、お前スキルを覚えたのか?」
ソラのスキル欄には水刃、超振動と書いてある。
いつの間にこんなものを覚えたんだ? 俺だって一つしか覚えてないってのに、羨ましいぜ。
「水刃ってどんな技なんだ?」
何気なくそう尋ねる。
すると突然肩に乗っているソラがビュン! と物凄い速さで水の刃を吐き出す。
その刃は目の前の巨木をいとも容易く両断し、森の一角を更地にしてしまう。
「……ちょっと強くなりすぎじゃない?」
ドン引きしながらそう言うと、ソラは気分良さそうにぴょんぴょん跳ねる。
おっかない技だけど、頼もしいな。この技があればそこらのモンスターとも充分戦えるだろう。
「次からはソラも一緒に戦ってもらえるか?」
「うんまかせて!」
「そりゃ頼もしい……って、ええ!?」
しゃ、しゃべった!?
驚いて肩に乗るソラを見ると「どうしたの、リック?」とソラが首を傾げるように動く。
や、やっぱり喋ってる……
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