第10話 最悪の帰還

「ぬう……ぐぐ……っ!」


 残った吸血鬼狩りヴァンパイアハンターは悔しげに歯を食いしばる。

 手に持った銀の剣は震え、まともに持つことも出来ていない。これじゃ勝負にもならなそうだ。


「まだやるのか? 今帰るなら見逃してやらないこともないぞ」

「ふざけるな! 私たちは誇り高き吸血鬼狩りヴァンパイアハンター……貴様らのような悪に屈することはない!」


 勝手に悪人にされてしまった。

 それにしてもこいつら……気に食わないな。自分たちが正しくて、敵は全て悪という考え方、まるで父親を見ているみたいで虫唾が走る。


「我が聖剣の前に散るがいい!」


 俺に向かってきた男は、銀の剣を俺めがけて振るう。

 狙いは首。軌道が素直すぎて【神の目】の力を使わなくても見切れるぞこんなの。


「ほいっ」


 剣の腹に拳をぶつける。

 すると銀の剣は真ん中からポキリと折れてしまう。


 弾ければいいと思ったが、まさか折れてしまうとは。やっすい鉄を使ってるな。


「わ、私の聖剣が……!」

「なにが聖剣だ。表面に銀が塗装されてるだけで何の魔法効果もないじゃないか」


 【鑑定】してみたがランクはB。本物の聖剣の足元にも及ばない。こんな物が聖剣ならこの世界の剣は聖剣だらけだ。


「よくも――――っ!」


 今度は銀のナイフを取り出し襲いかかってくる。

 俺はその一撃をさばき、顔面めがけて拳を振るう。


「少し眠ってろ」


 めぎょ、という音とともに俺の拳が男の顔面に突き刺さる。

 俺のパンチを食らった男の体は宙を舞い、五メートルほど移動し地面に落ちる。


 ふう、すっきりした。


 吸血鬼狩りヴァンパイアハンターが全員無力化したことを確認した俺は、助けた少女のもとに近づく。


「確かヨルとか言ったな、大丈夫か?」

「う、うん」


 まだ警戒しているのか少しビクビクした様子だ。

 無理もない。やっと化け物から解放されたと思ったら、今度は味方だと思っていた人間に襲われたんだ。警戒して当然だ。


「ひとまず俺の家に来ないか? そこなら結界があるから敵は来ないし、モルドもいる。その先のことはそれから決めよう」


 そう提案するとヨルはこくりと首を縦に振る。

 ふう、これでひとまず一件落着かな?


「それで、いい。でも……」

「ん?」


 この時、俺はあることに気がつく。


 ヨルは怯えている。

 それは分かっている。


 でもその相手は……俺じゃなかった。


「まだ、あいつ・・・の気配がする。死んだはずなのに……!」


 ヨルがそう呟いた瞬間、俺の背後からとてつもない魔力が放たれる。


 急いで後ろを振り返る。

 するとそこには先程倒した吸血鬼狩りヴァンパイアハンターが立っていた。


 だけど様子が明らかに変だ。虚ろな目をしていて焦点が定まっていない。


 おまけに体から放たれるこの禍々しい魔力……明らかに普通の人間のものじゃない。


「誰だお前は」


 そう尋ねると、男は目をぐりんと動かし俺のことを見る。

 その口元は邪悪な笑みを浮かべている。明らかに正気ではない。


「君がこの人間を弱らせてくれたのかな? おかげで体の支配権を得ることが出来た、礼を言うよ」


 心底楽しそうに男は言う。


「体がむずむずすると思ったら銀の鎧こんなものを着けていたのか。汚らわしい」


 男は装備した銀の鎧や武器を地面に捨てていく。

 ここまでくれば何が起きているのかは想像がつく。


「お前……吸血鬼だな? なんでその体に宿っている」

「ご名答。私の名はバラド・ヴァンシュタイン。誇り高き吸血鬼の一人だ」


 男の背中から黒く禍々しい羽が生える。

 口から覗く長い牙、尻からは尻尾。もう完全に人間の姿ではない。


「さて、そこにいる我が伴侶を返してもらおうか。それは私のだ」


 吸血鬼バラドは邪悪な笑みを浮かべ、そう言った。

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