第9話 吸血鬼狩り《ヴァンパイアハンター》

「よかった。間に合ったみたいだな」


 俺は抱きかかえた少女を覗き込む。


 まるで本物の銀かと見間違うほど輝かしい銀髪と、ルビーのように深い赤みを帯びた瞳。

 歳は十代前半くらいに見えるが、その顔にはどこか妖艶さを感じる。


 王家に所属していたからそこそこ美女は見てきたはずだが、これほどまでに整った顔は見たことがない。

 なるほど、吸血鬼と吸血鬼狩りヴァンパイアハンターが固執するのも頷ける。


「あなたは……?」

「モルドってコウモリに頼まれて助けに来た。信頼してくれって言っても無理かもしれないが、任せてもらえると助かる」

「モルドが……!」


 コウモリ執事の名前を出したら明らかに目の色が変わった。どうやらひとまず信用してくれたみたいだ。

 俺は地面に優しくその子を置き、男たちに向き直る。


「誰だ貴様は! そいつは私達の獲物だぞ!」


 武器を向ける吸血鬼狩りヴァンパイアハンターたち。


 人数は四。

 さっき倒した奴は仲間は五人いると言っていた。どこかに潜んでいるかもしれないな。それも警戒しておこう。


「あまり人を殺したくはない。黙って去り、二度とこの森に立ち入らないと言うなら見逃してやってもいい。だがやるというのなら……容赦はしないぞ」


 聖剣を抜き、そう言い放つ。

 吸血鬼狩りヴァンパイアハンターたちは聖剣を見て一瞬たじろいだが、逃げはしなかった。俺を警戒はしてるが、人数有利だから負けはしないと考えているのだろう。


 だけど悪いな。こっちも一人・・じゃないんだ。


「ソラ、ベル! 頼むぞ!」


 そう呼びかけると、岩陰からベルが「わふっ!」と飛び出してくる。その背中にはソラが乗っている。


 ベルは鋭い牙を剥き、剣を構える男の腕に噛みつく。

 男は銀色の鎧を身にまとっていたが、ベルの牙はそれをたやすく貫き、腕を傷つけた。


「い、いでえ!!」

「なんだこの犬っころ!?」

「なにやってる! 早く殺せ!」


 仲間を助けようと槍を持った男がベルを攻撃する。

 しかしその攻撃は背中に乗っていたソラが対処する。


「させないよ! むんっ!」


 ソラは体の一部を触手のように変形させ、それで相手を殴りつけた。

 これはソラのスキル「変形」だ。その名の通り体を様々な形にさせることが出来る。


 更に形だけでなく『硬さ』の調節まで出来る。これを応用すれば、体を盾や剣に変形させて闘うことが出来る。戦略の幅は無限大だ。


 男たちはそんなことが出来るスライムと戦ったことがないのだろう。かなり混乱しているみたいだ。おかげで隙だらけだ。


「余所見している暇があるのか?」

「しま……っ」


 俺は弓を持っている男に接近する。

 男は急いで弓を構えるが、すでに接近した状況でそれは愚策だ。

この距離で矢を当てることなど不可能に近い。即座に弓を手放し、腰に装備している短刀を抜くべきだ。


 俺は聖剣でまず弓を真っ二つに斬って壊す。

 そして役立たずの木片を持ったそいつのみぞおちを思い切り殴り飛ばす。


「がっ!?」


 胸にはプレートアーマーを装備していたが、しょせん安物。

 強めに蹴っただけで足の形に凹んでしまった。


「後は……お前だけだな」


 既にソラとベルは二人の男を戦闘不能にしていた。

 今この場で戦闘可能な吸血鬼狩りヴァンパイアハンターは一人しかいない。


 明らかに絶体絶命な状況。しかし男は笑みを浮かべていた。


「……まさかこんな邪魔が入るとは。しかし、その吸血鬼は必ずいただく!」


 そういった瞬間、後ろからバチバチ! と音が聞こえる。

 振り返るとそこには杖を構える男の姿。


「最後の一人、やっぱり隠れていたか」

「今頃気づいても遅い! そいつをやっちまえ!」


 魔法使いの男は杖から巨大な雷を生み出す。

 そしてそれを思い切り俺の方に放つ。


「くらえ! 上位雷撃ハイサンダー!」


 前に出会った魔法使いのソフィア。

 彼女いわく上位ランクの魔法を使えるものは限られた強者だと言っていた。


 彼女はその時に上位ランクの魔法を使って見せてくれたが……今放たれた魔法は、その魔法とは比べ物にならないほど、拙かった。


「魔力の練りが甘い。いい師匠に出会えなかったみたいだな」


 同じ魔法でも、術者によってその威力には大きな差が出ると聞いた。

 目の前のこいつは、上位魔法を覚えるのに必死で、基礎をおろそかにしたんだろう。その程度の魔法であれば……


雷撃サンダー


 俺の手からいかづちが迸り、相手の放った魔法をたやすく引き裂く。

 そしてそのまま相手の体に直撃する。


「馬鹿な……ただの雷撃サンダーに私の上位魔法、が……」


 その言葉を最後に魔法使いはパタリと倒れる。


「軽いんだよ、お前の魔法は」


 俺の魔法もまだまだ荒削りではあるが、魔力をきちんと練り込んである。

 レベルの恩恵で高い魔力を持つ俺が放てば威力はそれなりに出るってわけだ。こんな形だけの魔法に負けはしない。


「さて、残るはお前だけだな」

「ひいっ」


 最後に残った吸血鬼狩りヴァンパイアハンターに目を向ける。

 とっとと終わらせて家に帰るとしよう。

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