第2話 コボルトの村
俺が出会ったコボルトは、ポチタという名前らしい。
ポチタの見た目は子どもだけど、コボルトでいうともう大人の歳らしい。
とはいえ言葉遣いや仕草は子どもにしか見えないので、俺は子どもと接するように相手をしている。ポチタも特に気にしていないみたいだ。
「こちらですリックさん!」
茂みをかき分けついて行くと、コボルトの村に到着する。
住民数十人規模の、小さな村だ。木や藁を使って家を作っているが、手先が器用じゃないのかそれほど見栄えはよくない。
中には木の上や木に空いた穴に住んでいる者もいる。
あまり住処にこだわりはないみたいだ。
「みんな! この人が地竜を討伐してくださったリックさんだ! 盛大にもてなしてほしい!」
ポチタの言葉にわっと盛り上がるコボルトたち。
あっというまに宴の準備が整い、大きな火を焚き、木で出来た見たことのない楽器を鳴らし始める。
「勇者さまばんざい!」
「勇者さまばんざい!」
代わる代わるコボルトたちは俺のもとにやって来て体を一回擦りつけ、去っていく。
どうやらこれがコボルト流の親愛の証みたいだ。
見ればソラも子どものコボルトたちに体を擦り付けられ楽しそうにしている。
「みんな騒がしくてすみません」
擦りつけ大会が終わった後、ポチタが申し訳無さそうな顔をしながら近づいてくる。
「別にいいよ。あれがコボルトなりの歓迎方法なんだろう?」
「はい。あれは感謝を表す方法でもあるんです。なのであの……私もやっていいですか?」
うずうずした様子でそう尋ねてくるポチタ。
断ったら泣きそうなので許可すると、ゴシゴシと体を擦りつけ、満足そうな表情で離れる。
「ふー。すっきりしました」
「……そりゃなにより」
すっかり毛だらけになった服を見て少し憂鬱になる。
これだけコボルトの毛と臭いがついたらベルが怒りそうだな。
「……そういえば地竜に襲われたにしては、意外と村は壊れてないな」
壊れている家や、なぎ倒された木はあるけど、残っている家は結構あるし、コボルトたちに怪我は少なそうだ。
俺が見た限りコボルトたちの戦闘能力は低い。よくみんな生き残れたと思う。
そんな俺の疑問にポチタは答える。
「私たちは弱いですが、逃げ足と隠れる能力は高いのです。みんな家に避難するのではなく、散り散りに逃げたので損傷は少ないんですな。逃げ足が速いからこそ私たちはこの森でも生き残れています。まあ、私は逃げ損ねて傷を負ってしまったんですが……」
「それでも逃げ切っただけたいしたもんだよ」
そう言いながら目の前に出されていた焼き魚を手に取り、かじる。
青い鱗の見たことない魚だ。この森は海に面していないから川魚だろう。
うん、身がホクホクしていて美味しい。塩加減も絶妙だ。他にも料理は木の実や果物、パンに似た食べ物などたくさん並んでいた。
どれも丁寧に調理されていて、素朴だがとても美味しかった。
「質素な物しか用意出来なくてすみません。出来ればお肉を用意したかったんですけど……」
「充分美味しいよ。ありがとうな」
村の復旧に人手を割いているのだから食料に余裕がなくて当然だ。
こんなにもてなしてもらって申し訳ないくらいだ。
「……あ、そうだ。肉といったら」
腰に装備した『次元神の小鞄』に手を突っ込んで、中からお目当て物を取り出す。
「あった。これだ」
「……それはっ!!」
ポチタは俺の取り出したものを見て目を丸くして驚く。
俺が出したのは先ほど倒した地竜の肉。
筋肉質の地竜は脂肪が少なく上質な赤身肉となっていた。【鑑定】した結果、味はかなりいいらしい。
「これをみんなで食べよう。量ならかなりあるからみんな食べれるだろう」
「い、いいんですか!? 確かにみんな喜ぶとは思いますけど……」
「少しだけ持ち帰る分をくれれば後は大丈夫だ。せっかくの宴、みんなで楽しくやろう」
「リ、リックざん……っ」
ポチタは涙と鼻水を流しながら俺の手を握る。
どうやら喜んでもらえたようだ。
「私勘違いしてました。人間ってとても優しいんですね。怖いものだと教わってずっと避けてました。リックさんみたいな人がいるなら、あの人達をお助けすればよかったです」
「……ん? なんのことだ?」
「実は一昨日、森の中で人間を三人ほど見かけたんです。迷っているようなので助けようか悩んだのですが……人間は怖いと教わっていたので逃げてしまいました」
「そうだったのか。ちなみにどこで見かけたんだ?」
「ここから南部ですね」
南部となると森の中心部に近いな。
中心部に近づくほどモンスターの強さも上がる。心配だな。
「ちなみにどんな人だった?」
「えっと、紺色のとんがり帽子を被った魔法使いみたいな人がいました。その人は確か……ソフィアって呼ばれてました」
「……それは本当か?」
「あ、え、はい。耳はいいので間違いないはずです」
見た目の特徴と名前まで会ってるんじゃ間違いない。
その人物は以前俺に魔法を教えてくれた冒険者、ソフィアだ。
彼女ならそうそうモンスターに負けることはそうそうないと思うが、心配だ。様子を見に行ったほうがいいだろう。
「宴の途中でごめん。俺はその人を探しに行かなくちゃいけない」
「あ、でしたら私も行きます。匂いなら覚えてますので」
「それは助かる。飛ばしていくから背中に乗ってくれ」
背中にポチタを乗っけた俺は、他のコボルトに謝り、村を後にする。
何事もなければいいんだが……
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