第四章 再会

第1話 地竜

「リック! こっちに来てるよ!」

「ああ、分かってる!」


 肩に乗っているソラにそう返事し、俺は前に注目する。

 唸り声とともに木がなぎ倒される音が耳に入ってくる。大地が揺れ、周りの動物たちが我先にて逃げ出していく。


『ゴギャアアアアア!!』


 森の中に響きわたる恐ろしい声。

 その主は『地竜』。羽がなくなった代わりに強い脚力を持った竜種だ。

 巨大な体躯に黒い鱗。顔には長いひげが生えていて、相手が隠れてもそれで見つけ出してしまう。


 俺はわけあってそんな地竜と戦闘をしていた。


「そらっ!」


 矢を引き、放つ。

 しかし地竜の鱗は硬く、弾かれてしまう。


「流石に硬いな。生半可な攻撃じゃ効かないか」


 さっきソラが『水刃』を放ったが、表面に傷をつけた程度で大きなダメージは与えられなかった。奴の黒い鱗は鉄より硬いみたいだ。

 地竜の大きさは四メートルはある。そのくせ物凄いスピードで走り回る。厄介な相手だ。


「だがそれだけ強ければ手に入る素材もいいだろう。楽しみだ……!」


 俺は木の上から地竜を睥睨する。

 すると地竜は大きく息を吸い込み、俺の方に顔を向ける。


 口の隙間からは炎が漏れ出ている……こいつまさか火まで吹けるのか!?


『ギャオオオオオッ!!』


 地竜の口から巨大な炎の塊が放たれる。

 いくらレベルが上っているとはいえ、こんなの食らったらこんがりよく焼きウェルダンだ。


「――――影の指揮者シャドウマスター


 俺の体を包み込むように、影のマントが現れる。

 それを前方に盾のように展開し炎を防ぐ。


 影は一見柔らかく見えるけど、その硬さは凄まじい。

 炎を難なく防ぎ、こちらには熱が一切伝わってこない。


透視クリアアイ


 影の盾を透視して、その奥にいる地竜を捉える。

 そして盾の向こう側めがけて弓を構える。


「流石に口の中までは硬くないよな?」


 矢に魔力をまとわせた後、弓を放つ。

 矢は風を切りながらまっすぐと飛ぶ。当然影の盾にあたりそうになるけど、当たる箇所に矢が通る分の穴を空けて通す。


『ギャオゥ!?』


 矢は炎を切り裂き、地竜の喉に突き刺さる。

 さすがの地竜もその痛みに耐えかね火を吹くのを止める。


 その隙を突き接近。

 手早く聖剣を抜き放ち、思い切り地竜の体を斬りつける。


『ギャアオ……ッ!』


 断末魔を上げながら、地竜はその大きな体を地面に横たえる。

 そして次の瞬間、いくつかの素材を残して地竜の体は消える。


「ふう。中々面倒くさい相手だったな」


 さっそく俺は戦利品を漁る。

 牙に鱗に肉……どれもAランク以上の高級品だ。


「お、珍しいのがあるな」



【地竜の靭髭】ランク:A+

地竜に生えている太く強靭なひげ

鞭や弓のつるの素材として使える。



「これは初めて手に入れる素材だな」

「なにこれー、食べれるの?」


 肩に乗ったソラが能天気に尋ねてくる。

 ちなみにベルは今日、ヨルとともに留守番をしている。


「食べてもあまり美味しくはなさそうだ。その代わり弓の弦になるみたいだな」

「つる?」

「弓に張ってある糸のことだ。今使ってる糸は普通の糸だから、替えれば結構強くなりそうだ」


 俺の作った長弓は、使いやすいけど威力は控えめだ。

 どんどん新しい素材を取り入れて強くしていきたいな。


「お、終わりましたか……?」


 素材を全て回収し終わると、茂みの中から小さな影が現れる。

 背丈は子供と同じくらい。全身にもふもふの毛を生やしたそれの見た目は、二足歩行する犬みたいだ。


 種族の名前は犬人族コボルト

 パスキアの大森林に住む亜人のひとつだ。


「ああ。もう地竜は倒した。ほら、これがその証だ」

「わ! これは地竜の鱗! 本当に倒したのですね! ありがとうございます!」


 コボルトは尻尾をぶんぶんと振りながら喜ぶ。

 本当に犬みたいだな……。


「申し訳ありません。出会ったばかりだというのにこんなお願いをしてしまい」

「いいんだ。俺も久々に骨のある相手と戦えたし、いい戦果ものも手に入った。それに困っている人がいたら助けるのは人として当然のことだ」

「はわわ……なんていい人なんでしょう……!」


 コボルトはキラキラした目で俺を見る。

 少しカッコつけすぎたかな?


 俺がコボルトと出会ったのは今日のこと。

 たまたま行き倒れていたコボルトを見つけ助けた俺は、彼らの村が地竜に襲われたことを知った。

 地竜の現れた場所は俺の家に結構近かった。放置しておくとヨルやリリアが襲われる可能性もある。それにコボルトと仲良くなれる機会だと思い討伐を申し出たのだ。


「ぜひ私達の村にいらしてください! 地竜に荒らされた後なのでたいしたおもてなしは出来ないかも知れませんが、精一杯おもてなしをさせていただきますっ!」

「じゃあお邪魔しようかな。案内してくれるか?」

「はいっ! お任せください!」


 こうして俺はコボルトの案内のもと、彼らの村に向かうのだった。

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