第28話 メビウス

「……神、ですか」


 神様、それは人智を超えた超常の存在。

 この大陸に複数存在する宗教、そのどれも言ってることはバラバラだけど、神という存在を崇拝していることに変わりはない。


 スキル『神の目』は、まるでその神様のような目を手に入れられるスキルだと思っていた。

まさか本物の神様が関係しているスキルだったとは。


「そういえばこの家に残されていた道具には神の名を持つ物がありました。それもその神様から貰った物なのですか?」

『君が言っている神とは「豊穣神」や「狩猟神」のことだろう。その問いには「違う」と答えよう。それらの神は私の言う神より下位の存在だ。神の目が通じている神は唯一にして絶対の存在、この星そのものと言っていい「絶対神」なのだ』


 話が大きくなりすぎて頭が痛くなってきたぞ。

 情報量が多すぎる。


『絶対神。名を「メビウス」というそれは、この星に蓄えられた情報全てを保持している情報統括思念生命体だ。全ての命が記憶した事象は土に還ると同時に星に結合し、絶対神メビウスに記録される。人、魔物、微生物。全て平等にな』

「……なるほど。だから絶対神メビウスと繋がれる『神の目』は全ての情報を見ることが出来るのですね」

『その通り。察しが良いな』

「でも【鑑定】スキルも文字は見えますよね? あれはなんなのですか?」

『神の目に目覚める素質を持ちつつも、目覚めさせることが出来なかった者は【鑑定】スキルを手に入れる。【鑑定】スキルでは表層の知識しか得ることは出来ない。不運だが仕方のないことだ』


 なるほど。

だから【鑑定】スキルは他のスキルと違い、変わった効果をしているのか。


『そもそもスキルを授かる「宣託の儀」という儀式自体が「神の目」を持つ者を生み出すため始まった儀式なのだが……この話も長くなる。今はやめておこう』


 目の前のアインさんの姿のブレが強くなる。

 凄い気になることを言っていたけど、喋れる時間の終わりが近いみたいだ。


「……では最後に教えてください。俺は何をすればいいんですか? この力を得たからには何かしなくちゃいけないことがあるはずです。教えてください!」


 そう尋ねると、アインさんはふっと笑みを浮かべる。

 なにかに安堵したようなそんな優しい表情だ。


『好きに生きろ』

「……へ?」


 想像だにしてなかったその言葉に、俺は思わず呆けた声を出す。


『私は好きに生きた。助けたい人を助け、愛したい者を愛し、許せない存在を倒した。理想の国を興し、子どもを愛し、自由な余生を送った』


 そう語るアインさんの顔は満ち足りていた。

 この人は本当に後悔のない人生を送ったんだと分かった。


『だから君もそうするといい。確かに神の目を持つ者には使命がある、だがそんなもの無視しても構わない。君がその使命に納得できないのであればな』


 まさかそんなことを言われるとは思わなかった。

 この人は本当にすごい人だ。


『最初に君の目を見た時、私は安心した。君にならここに遺した物を託しても大丈夫だと。もし信用できない者が後継者であるならこの家は壊そうと決めていた』

「アインさん……」

『私の遺した国は良くない方向にいってしまったかもしれない。だが君という存在を未来に残せたのなら私の人生は百点だ。ありがとう、我が子孫よ』

「俺の方こそありがとうございます。貴方という人が先祖なのは俺の誇りです」


 席を立ち、胸に手を当てて頭を下げる。

 これはアガスティア王国において最上級の敬意を表す動作だ。


 アインさんはそれを見て少し驚いたような顔をした後、満足そうに笑みを浮かべる。

 そしてその姿は徐々に薄れていき……完全に消える。


「『好きに生きろ』、か」


 神の目とこの家にあった武具を手に入れて、少し気負っていたところがあったけど、その言葉でかなり楽になった。


 ご先祖様の言う通り、好きに生きよう。

 あの人みたいに後悔のない人生を生きられるように。俺はそう思うのだった。

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