第3話 蜘蛛の巣
パスキアの大森林奥部。
エルフたちも立ち入らないそこには、強力なモンスターたちがひしめいている。
運悪くそこに迷い込んでしまったソフィアは、苦戦を強いられていた。
「こいつ……っ!
ソフィアは襲い掛かる蜘蛛のモンスター『キラースパイド』の攻撃をすんでのところで躱し、杖の先に魔法の剣を生み出し相手の体を両断する。
『ギュア……ッ』
声を上げ絶命するキラースパイド。
しかし息をつく暇なく、続々とキラースパイドは集まってくる。ここは彼らの縄張り。
そこに入り込んだ者は、竜であろうと見逃されることはない。
「隠れててください!」
ソフィアがそう呼びかけると、二人の同行者が茂みの中に姿を隠す。
それを確認したソフィアは、大量の魔力を練り込み魔法を放つ準備をする。
「かかってこい、全員私が焼き尽くしてやる!
蛇の形をした巨大な火炎が生まれ、蜘蛛たちを飲み込んでいく。
蛇が通った後には焼け焦げた大地のみが残り、飲み込まれた蜘蛛たちは消し炭になっていた。
「はあ……はあ……」
肩で息をするソフィア。
彼女の服はあちこちが擦り切れ、生傷が残っていた。
顔には強い疲労の色が浮かんでおり、汗と泥で汚されていた。
「これで終わり……なわけないか」
木の上から、岩の隙間から、わらわらとキラースパイドが現れる。
たとえ仲間が何匹やられても引く気はないようだ。
ソフィアは金等級のベテラン冒険者。万全の状態であればまだ対処出来たであろうが、彼女は戦う前からかなり疲弊していた。
本来であればもう目的地についているはずなのだが、少し前に地竜に追われたことで想定していたルートを大きく外れてしまっていた。
そのせいでロクに睡眠を取ることも出来ず戦い続けていた。
『ギチチ……』
そんな彼女の心を折るように、一際大きな蜘蛛が現れる。
キラースパイドたちの親玉、『スカルスパイダー』はその赤く光る恐ろしい目をソフィアに向ける。
足がすくみそうになるソフィア。
逃げ出したくなるが、彼女の後ろには護衛対象がいる。逃げ出すわけにはいかない。
ソフィアは力を振り絞って魔法を放つ。
「
二つの柱状の炎がスカルスパイダーに襲いかかる。
しかし蜘蛛は八本の足を素早く動かしそれの間を縫うように走り回避する。そしてソフィアに思い切り体当たりする。
「か……は……っ!!」
そのあまりの衝撃にソフィアは肺が潰れるような痛みを覚える。
無様に地面を転がり、口から血を流す。
「ここまで、なの……?」
体力も魔力も尽きた。
護衛対象の内、一人は戦える人物だが、そっちにもキラースパイドが数匹向かっていった。加勢は期待出来ない。
カチカチと牙を打ち鳴らしながら、スカルスパイダーが近づいてくる。
『ギギ……ガッ!!』
そしてその鋭い牙を思い切りソフィアに突き刺そうと襲いかかってくる。
もはやこれまで。そうソフィアが思った瞬間、黒い影が物凄い勢いで両者の間に割り込んでくる。
「
まるで生きているかのように影が動き、盾の形となる。
その盾はスカルスパイダーの一撃を完全に止めてしまう。
「間に合ってよかった。無事かソフィア?」
「……へ?」
ソフィアは間の抜けた声を出す。
それもそのはず、目の前にいたのは、ずっと会いたいと思っていた人物だった。
「リック、なの?」
「ああ、久しぶりだな……って、酷い怪我じゃないか」
リックはソフィアのもとに屈み、傷口に
その間もスカルスパイダーは何度も攻撃してくるが、影の盾はビクともしなかった。
「これでよし……と。あとどこか痛むところはないか?」
「うん、ありがとう。本当に……」
熱のこもった視線をリックに向けるソフィア。
ソフィアが無事であることを確認したリックは、依然牙を盾に叩きつけているスカルスパイダーに目を向ける。
「――――
リックがそう口にすると、影が巨大な槍の形に変化する。
その槍は高速で回転し、スカルスパイダーに襲いかかる。
『ギ……ィ』
風穴を空けられたスカルスパイダーはあっという間に絶命し、その場に崩れ落ちる。
それを見たソフィアは口をあんぐり開けて驚く。
「なにこれ……魔法、じゃ、ない……?」
リックの使った技から魔力は感じるが、それは人間の使う魔法とは明らかに違う異質なものであるとソフィアは感じた。
他にわかることは一つだけ。
この人は前に会った時より格段に強くなっている。
『ギ……』
親玉をやられたことで、キラースパイドたちも流石に躊躇する様子を見せる。
しかし彼らは少し逡巡した後、一斉にリックに襲いかかってくる。
「一気に終わらせる……
地面に溶け、広がっていく影。
すると次の瞬間、蜘蛛たちの足元に広がった影から無数の槍が突き出される。上にいた蜘蛛たちは当然体を貫かれてしまう。
『ギギ……ッ』
数十匹いた蜘蛛たちは全て絶命し、素材を残して消え去る。
その常識はずれの光景にソフィアはしばらく放心していたが、ハッと正気を取り戻す。
「ありがとうリック。助かった。あ、そうだ。リックに会わせたい人がい……」
がさがさ、とソフィアの言葉を遮るように草むらが揺れその中から人が現れる。
その人物を見たリックは驚き、目を丸くする。
「なんでここに……!」
その人物はリックもよく知る人物であった。
現れたその人物もまた、リックを目にして驚き、そして柔和な笑みを浮かべる。
「お久しぶりですね、リック。元気にしていましたか?」
リックの姉にしてアガスティア王国の姫、マーガレット・アガスティアはそう言うのだった。
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