第4話 第一王女マーガレット

 俺の姉上、マーガレット・アガスティアは本当の姉・・・・ではない。

 正確には俺の父の兄の娘……つまり従姉妹関係だ。


 父が王位を継いだことで、父の兄は公爵の地位を得た。

 その娘である姉上は、本来であれば公爵令嬢という立場になるはずだった。


 しかし姉上が『聖女』というスキルに目覚めたことでその運命は大きく変わった。

 『聖女』は滅多に目覚めることのない希少スキル。それに目をつけた父上は、姉上を養子に迎え入れ王位継承権も与えた。姉上は公爵令嬢から第一王女になったのだ。


 そうすることで姉上を手元に置き、いつでも自由に使えるようにしたんだ。

 聖女の使い道は色々ある。単純な戦力としても一級品だが、政治の使い道としてもこれ以上のカードはない。

 聖女と結婚したいものなど、いくらでもいるのだから。


 と、そんな姉上だが俺との仲は良好だった。

 養子に来る前からよく遊んでいて、小さい頃は好意を寄せていたこともある。


 だが国を追われてもう二度と会うことはないんだろうと思っていた。

 その姉上が……今、目の前にいる。


「良かったリック! 生きていましたのね!」

「わぷっ?」


 桃色の髪を揺らしながら駆け寄ってきた姉上は、俺のことを思い切り抱きしめてその豊満な胸に顔を埋めさせてくる。


「ああ! 本当に会えるなんて! 危険を冒してここまで来た甲斐がありました!」

「むぐぐ……息が」


 胸で鼻と口を塞がれ、息が出来ないのを伝えるため腕をタップするが、姉上は全く気が付かない。

 このままじゃ意識を失う。そう思っていると、


「マーガレット様。リッカード様が苦しそうにしておられますよ」

「へ? あ、本当! 大丈夫リック!? しっかりして!!」


 助けが入ったことで俺は解放される。

 ふう、危なかった。


 息ができる喜びを再確認した俺は、現れたもう一人の人物に視線を向ける。


「久しぶりだな、リン」

「はい。リッカード様もお変わりないようで」


 相変わらずの無表情でリンは答える。

 リンは姉上の専属メイドだ。

感情が薄く、何を考えているかよく分からないが仕事はめちゃくちゃ出来る。戦闘能力も高く並の兵士じゃ全く歯が立たない。


 昔は俺の専属メイドだったけど、姉上が養子になった時に姉上の専属になった。

 急に王城に住むことになった姉上には周りに知り合いがいなかった。だから俺はリンに姉上の力になるようお願いしたのだ。


 明るくお喋りな姉上と、寡黙なリン。

 相性は良くないかなとも思ったけど、意外と馬があったようで仲は良好みたいだ。


「二人ともまさか……俺に会いに来たのか?」

「ええ当然です。ソフィアさんから貴方を見たという情報を聞き、居ても立っても居られずやって来ました」


 胸を張りながら姉上は言う。

 まさかここまでするとは思わなかった……。


 一応姉上に生存報告をするか悩んだことはある。

 しかし俺は記録上死んだ身。もし生きていることが分かれば大きな騒ぎとなる。


 そして間違いなく父は俺を再度殺そうとするだろう。

 今の俺ならそう負けることはないだろうが、国民や姉上に危害が及ぶ可能性も高い。そう考えると会うのは得策じゃないと考えた。


 お互い忘れて過ごす……それでいいと思っていたけど、この人はそうは思っていなかったみたいだ。


「わざわざ会うためだけに城を抜けてきただなんて……父に気づかれたらどうするんですか姉上」

「ちょっと! その姉上というのはやめてと言ってるでしょう? 昔みたいにほら『お姉ちゃん♡』って呼んでよ」

「……姉さん」

「むう……まあひとまずそれでいいでしょう」


 なんとか妥協してもらえた。

 この歳でお姉ちゃんはさすがに恥ずかしいから勘弁してほしい。


「ひとまずここは危険だ。家に行くとしよう。ソフィアも一緒にな。えっとポチタは一人で帰れるか?」


 そう尋ねると近くの草むらからポチタが顔を出して「は、はい! 大丈夫でふ!」と大きく返事をする。


「悪いな。コボルトのみんなには途中で帰って悪いと伝えてくれ。また遊びに行くから」

「はい! いつでも来てください!」


 そんなこんなでポチタと別れた俺は、姉さん、リン、そしてソフィアを連れて家に帰るのだった。

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