第19話 牢

 突然現れた老齢の剣士、ジロキチと対峙するレイラ。

 向こうは一人。こちらは二人。人数的にはまだ有利だが、先程の斬撃を見るに実力は相手の方が上。油断できない状況である。


「……同胞を攫ったのは貴様の仕業か」

「やはり耳長を取り戻しに来やしたか。お察しの通り耳長の捕獲にはあっしも参加しました。あれらは貴重な商品、必要以上の傷はつけちゃいませんのでご安心を。もちろん女子おなごを傷物にもしちゃあいません」

「貴様……!」


 握る手から血がこぼれ落ちる。

 強い怒りを覚えたレイラは、激情のままジロキチに襲いかかりたい衝動に駆られる。


 しかし鋼の精神でそれを抑えこむ。

 もしこの作戦が失敗してしまえば仲間を救う機会は失くなってしまうと分かっていたから。


「ふむ……意外と冷静ですな。そちらから来ていただいた方が楽でやしたが」

「見くびらないで下さい。私は絶対に仲間を救う。そのために貴様を絶対に倒す……!」


 剣を構えるレイラ。

 それを見ながらジロキチは笑みを浮かべる。


「残念ながらそれは無理でさあ。ここにいる手練れはあっしだけじゃあありません」

「なんだって……?」


 ジロキチはちらと商館を見ながら言う。


「いるんですよ、もう一人化け物が。そいつはあっしよりも強い。あなた方は初めから詰んでるんですよ」


 レイラたちを絶望させるため、ジロキチはその情報を喋った。

 しかしそんな彼の思惑とは反対に、レイラは笑ってみせた。その不可解な反応を見たジロキチは首を傾げる。


「……なにがおかしいんでさあ」

「いやなに。貴様のおかげで思い出したんだよ。こちらにも心強い味方・・がいたことをね」


 自らの主人の顔を思いかべながら、レイラは駆け出すのだった。


◇ ◇ ◇


「リック様、この階はこれで終わりみたいですね」

「ああ」


 商館の二階にも見張りはいたが、一階ほど人数はおらず、すぐに制圧することが出来た。

 今のところは全て順調。このままいけば時間に余裕を持って終わらせることが出来る。


「よし、次の階に行くぞ」

「はい」


 階段を登り、ゆっくりと扉を開く。

 部屋は暗いが、俺の目は光がなくても昼と同じ様に見ることが出来る。


「人数は……四人。奥に牢があってそこに誰か閉じ込められてるな」

「かしこまりました。すぐに終わらせましょう」


 俺とリンは呼吸を合わせて一気に部屋の中に入り込む。


 まずは一番近くに居た見張りの首に手刀を振り下ろし、音もなく気絶させる。次に少し離れたところにいる、大柄の男に目を移す。


「……背後に迫るハイド&シーク


 見張りの足元に、俺は影を伸ばす。

 そしてその影の中に、俺は入り込む・・・・。影の中を泳ぐように移動した俺は、見張りの背後から姿を現し、再び手刀で気絶させる。


「これで二人……と」


 さて次は、と辺りを見渡すと、既に残りの二人はリンが片付けていた。

 仕事が速くて助かるぜ。


 安全を確保した俺は牢に近づく。

 中には人間の子どもと若い女性、そして幼い獣人がいた。全員見すぼらしい服を着せられ、床で寝ている。

探してみたけどその中にエルフの姿はなかった。


「こいつら、エルフだけじゃなくて人間まで奴隷として扱っていたのか。王国法なんて怖くないって感じだな」


 人間じゃないエルフや獣人であれば、誤魔化しも効く可能性はあるが、人間を奴隷として売買する行為は完全にアウトだ。

 だがそれもバレればの話。この人数規模を見るに、前から奴隷商売をやっていたのだろう。


「ただでさえ国が色々と大変な時期だというのに、愚かしいことです。デズモンド伯爵には必ず重い罰を受けさせなければ」

「ああ、そっちは任せた」


 俺は言いながら、牢の一番近くに居た見張りの体を起こして揺さぶる。

 一番身なりがいいから、見張りたちの中では格が上なんだろう。こいつなら何か知ってるかもしれない。


「おい、起きろ」

「んん……」


 目を覚ました瞬間に『魅了視チャームアイ』を発動し、催眠状態にする。

 よし、無事にかかったみたいだ。


「おい。捕らえたエルフはどこにいる」

「……エルフたちは……地下、です……」

「地下か……それは盲点だったな」


 神の目で見たのは地上部分だけ、地下の部分は確認しなかった。

 まさかそんなものを作っているとはな。


「地下へはどうやって行くんだ?」

「一階の床下に……隠し通路……」

「なるほど、通りで気づかないはずだ」


 聞きたいことを全て聞き終えた俺は、再び男を気絶させる。


「俺は一階地下を確認に行く。リンはどうする?」

「でしたら私はここで少し調べ物をいたします。書類が多いので、奴隷売買をしている証拠を掴めるかもしれません」

「分かった。じゃあエルフの無事を確認したら戻ってくる」

「はい。お待ちしております」


 こうして俺とリンは、二手に分かれて行動を開始するのだった。

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