第18話 鈴鳴
「……中は大丈夫でしょうか」
ダークエルフの女性、レイラ・クロエシェットは屋根上から商館を眺め、呟く。
自らの主人のことは信じている。しかしそれでも嫌な胸騒ぎを感じていた。
「考えすぎだレイラ、きっと上手くいくさ。あのお方を信じよう」
「ええ……そうですね。
仲間の言葉に頷くレイラ。
不安になる心を押し沈め、彼女は入り口をしっかりと見張る。
商館には出入り口が三箇所ある。
正面入り口。裏口。そして側面ある非常口。
レイラ含む三人のダークエルフは正面入口を見張っていた。
「しかしこれだけ時間が経っても一人も出てこないとは。さすが
商館から大きい音は聞こえない。
これなら外に気づかれることなく、任務を達成できるかもしれない。
そう思っていると……突然チリン、と鈴の音がレイラたちの耳に入る。
「――――っ!?」
振り返り武器を構えるダークエルフたち。
するとそこには一人の老人が立っていた。
(……いつからそこにいた!? 全く気が付かないとは!)
彼女たちダークエルフは夜に生きる種族。
普通のエルフよりも感覚能力は高い。高い気配察知能力を持っているにも関わらず、背中を許してしまったことをレイラは恥じた。
腰に小さな鈴をぶら下げたその老人は、糸のように細い目を薄く開きながら口を開く。
「こんな冷えた夜にお客さんたぁ珍しい。いったいあの建物に何の用だい?」
その老人は着流しと呼ばれる和服に身を包み、手には仕込み刀を持っている。
明らかにカタギの出で立ちではない。
「……まさか外にも用心棒がいたとはな」
「外での見張りをしろなんて用心し過ぎだと思ってやしたが、して正解でしたな。こんなにたくさん獲物がかかってくれるとは」
「獲物、だと……?」
老人はレイラ達を値踏みするように眺める。
「耳長……しかも黒とは縁起が良い。これだけ捕らえりゃ老後も安泰だ。悪いがお嬢さん方、ガラを押さえさせていただきやす」
「ずいぶん虚仮にしてくれる。ダークエルフの力、思い知らせてやろう」
レイラは老人の気を引くため、手にした細身の剣を突きつけながら話しかける。
その間に隠れていた仲間の一人が老人の背後から迫っていた。
「あまり抵抗しないでいただけると助かるんですがね。傷がつくと商品価値も下がりやす」
「我らは商品ではない。その思い上がり、正してやろう」
レイラがそう言った瞬間、背後に回り込んでいたダークエルフが音もなく老人に襲いかかる。
すると老人はまるでその動きが見えていたかのように、横に移動して回避する。そして仕込み刀に手をかけ、目にも留まらぬ速さで居合を放つ。
「がっ!?」
ヒュッ、という風を切る音と共にダークエルフの両足が斬られる。
切断こそされていないが深くまで切られており、立ち上がることが出来なくなってしまう。
「そういえば名乗り遅れやした。あっしは“
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