第17話 潜入

 俺とリンは建物の前に音もなく着地する。

 夜の王都は静まり返っていて、人一人歩いていない。


「してリッカード様、作戦はありますでしょうか?」

「ああ、もちろんある。……だけどその前にその『リッカード様』って呼び方やめてくれないか? その名前は捨てたし、他の人に聞かれたら色々と面倒だ」

「……分かりました。では少し恥ずかしいですがリック様と呼ばせていただきます」


 恥ずかしそうにしながらリンは答える。

 ……本当に俺に対する好感度が高いな。


「俺の調べだとこの建物には下から上までかなり多くの人がいる。おそらくそのほとんどが見張り、用心棒だろう」


 透視クリアアイはまだそれほど得意じゃないので、今回は『熱探視サーモアイ』という技で建物の中を確認した。

 その名の通り、熱源を感知することが出来る能力で、ある程度障害物の向こう側も感じる取ることが出来る優れものだ。

 エルフと人間の見分けをつけることは出来ないが、だいたいどこに何人いるかくらいは分かる。


「俺の見立てだと三階、そこが怪しいと思う。人が一箇所に集められている場所があるんだ」

「かしこまりました。ではまずは迅速にそこに向かうとしましょう」


 そう言ってリンは建物の扉に近づくと、メイド服の袖から何やら金属製の細い棒を出し、それを鍵穴に突っ込む。そしてものの数秒でそれを開けてしまう。


「そんなことまで出来たのか。さすがだな」

「メイドとして当然の嗜みです」


 どんな嗜みだよ。と思ったがリンにいくら突っ込んでも仕方ないのでスルーする。

 俺は今一度呼吸を整え、入る決心を固める。


「いくらヨルたちが出入り口を見張っているとはいえ、一人も逃さないつもりでやるぞ」

「当然です。私達だけで全員片付けてしまいましょう」

「いい心がけだ。それじゃあ……行くぞ!」


 扉を開け、中に足を踏み入れる。

 建物の中は暗く、小さなランプがいくつか点いているだけだった。


 見張りの人数は十名ほど。

 しかし油断しきっていて何人かは寝てしまっている。まあ急に攻めてくるとは普通思わないだろうが、油断しすぎだ。


「――――シッ!」


 まず駆け出したのはリン、手にした鎖分銅を投げ、見張りの一人の顎を的確に撃ち抜く。突然脳を激しく揺さぶられた見張りは何が起きたか理解するより早く意識を失う。


「さて、俺も頑張りますか……!」


 突然倒れた味方を見て唖然とする相手に近づき、俺は素早い右ストレートをお見舞いする。


「うぷっ……!?」


 なるべく音を立てないよう、吹っ飛ばない程度の力でボディに一撃を食らわせ、昏倒させ次の標的に移る。


「て、敵しゅ……」

「おっと仲間は呼ばせないぜ」


 叫ぼうとする見張りの顎をアッパーし、黙らせる。

 少し骨にヒビが入る感触があったけど、まあこれくらいなら死にはしないだろう。今回の作戦は全員生け捕りが目標。殺しは基本避ける方向でいくことになっている。


「このっ!」

「か、囲め!」


 異変に気づいた見張り達が武器を持って向かってくる。

 中には逃げようとする者もいるが、そいつらはリンの狙う暗器の餌食になっている。背中を向けて逃げる敵など、リンにとってはまと同然だ。


「くらえっ!」

「よっと」


 突き出される槍をかわし、首に手刀を打ち込む。

 見張りのレベルは高くて三十程度。殺さないように気絶させるのは難しいけど、なんとかこなす。


「……お前が最後か」


 あっという間に一階の制圧が完了する。

 俺は残った一人を捕まえ、その瞳を覗き込む。


「――――魅了視チャームアイ


 神の目の力で催眠状態にかかった相手は、目をとろんとさせ意識が曖昧になる。


「答えろ。捕まえた奴隷はどこにいる」

「……三階、です」


 どうやら俺の予想は当たったみたいだ。


「そこにいるのはエルフの奴隷か?」

「…………分かり、ません。俺たちは詳しくは……聞かされて……ません」


 予想はしていたが、こいつらは金で雇われているだけで大事なことはほとんど知らなかった。

 やっぱり自分の目で確かめるしかないか。


「リン、行くぞ」

「はい。どこまでもお供したします」


 俺とリンは共に二階に向かうのだった。

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