第5話 模倣
「武器を作ろう」
ゆっくり寝てご飯を食べた俺は、鍛治道具のある工房部屋に来ていた。
目的は口に出した通り武器作りだ。今の俺はレベル6、この森では最弱の部類だろう。食料を得るために外に出なくちゃいけないから今のままじゃ駄目だ。
とはいえいきなり体を鍛えても外のモンスターに勝てるようにはならない。だから最初は『武器』を作ることにした。
この工房を使う許可はご先祖様からもらうことが出来た。遠慮なく使わせてもらうとしよう。
「これと……これを組み合わせればよさそうだな」
俺が手に取った物は二つ。
【錆びた聖剣】ランク:?
錆びてしまった聖剣。
神の道具で鍛え直すことで輝きを取り戻す。
【オリハルコン】 ランク:EX
神の国からしか採れないとされる白く輝く鉱石。
聖なる属性を内包しており、聖剣の材料に使われる。
……まさか伝説の鉱物『オリハルコン』が転がっているとは思わなかった。
これと『鍛治神の金床』があればきっと聖剣を元に戻せるはず。
材料は揃った。道具もある。
だが一つだけ大きな問題があった。
「……鍛治なんてしたことないんだよなあ」
鍛治の知識なんて聞き齧った程度しかない。それなのに聖剣の打ち直しなんて出来るわけがない。
もし失敗したら一個しかないオリハルコンを失ってしまうかもしれないので適当にやってみるわけにもいかない。
どうしたものかと、俺は途方に暮れる。
「……ん?」
立ち尽くしながら部屋を見ていると、何やら人影のような物が浮き上がってきた。
半透明のそれは、手に剣と槌を持っている。どうやら鍛治をしているようだ。
「どういうことだ?」
近づいてその様子を見る。
その人物は俺のことなど全く気にせず、ひたすら一生懸命に槌で剣を叩いていた。俺は鍛治には詳しくないけど、普通の剣の作り方によく似ているように感じた。
その人物が打っている剣は、俺が持っている『錆びた聖剣』によく似ている。使っている道具も鍛治神の金床だ。
もしかすると……
「今見ているのは『過去の出来事』、か?」
神の目は全てを見通す。
過去の出来事が見えてもおかしくないのかもしれない。
ということは目の前で剣を打っている人物こそ俺のご先祖様、アインその人ということになる。
言われてみれば確かに俺と少し似ている……ような気がする。
「もしかしてこの打ち方を真似れば、聖剣を元の姿に戻せるんじゃないか?」
そう思い至った俺は、アインの動きをようく観察する。
するとその動きが体の中にすうっと染み込んでくる。なんだか俺にも出来そうな気がしてきたぞ。
体の中に芽生えた感覚に身を任せ、錆びた剣を炉の中に入れる。
そして充分に熱を持った聖剣を炉から出すと、金床の上にそれを移動させ、今度は力の限り槌で叩く。
アインの動きと
慣れない作業で腕が悲鳴を上げるが、構うものか。
「さあ聖剣。その姿を俺に見せてくれ――――」
――――二時間後。
俺の目の前には煌々と輝く素晴らしい聖剣の姿があった。
そして俺はその横に情けなく転がっていた。
「ぜえ……死ぬ……」
体をこんなに長時間酷使したのは初めてだ。
魔法の炉の炎は、普通の炎と比べて熱さをあまり感じないが、それでも二時間ぶっ通しで鉄を打ったりしてたので体中汗だくだ。鍛治って大変なんだな。
「でも、出来た……!」
聖剣は見た目とは反対にとても軽く、手に馴染む。
もちろんステータスも素晴らしい。
【聖剣アロンダイト】 ランク:EX
魔力を無限に生成する伝説の聖剣。所持者は重さを感じない。
全てを斬り裂く鋭さと、どんなに衝撃を加えても曲がらない頑丈さを併せ持つ。
「これは
羽のように軽いその剣を軽く振ってみる。
気持ちいい風切り音と輝く刀身が相まってテンションが上がる。
満足した俺は聖剣を収めると外に出る準備を始める。
外は怖いが聖剣があればなんとか戦いになるはず。頑張って食べられる物を探すぞ。
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