第7話 吸血鬼狩り

 軽く身支度を整えた俺は外に出る。

 横にはケルベロスのベル、その上にはスライムのソラがいる。吸血鬼狩りヴァンパイアハンターがどの程度強いかは知らないが、三人がかりで敵わないみたいなことはないだろう。


「リリアは家にいてくれ。俺たちだけでやってくる」

「ですが……」

「そこのコウモリはまだ満足に動けない。そいつを吸血鬼狩りヴァンパイアハンターが狙う可能性もある。守ってやってくれるか?」


 リリアはしばらく考え込んだあと、首を縦に振る。


「……わかりました。その代わり必ず帰ってきてくださいね」

「ああ。ここは任せたぞ」


 そう言ってリリアの頭を一回なでたあと、コウモリ執事モンドに目を向ける。


「頼みましたぞリック殿。姫様をお救いくださったら必ず礼はいたします」

「はは、そりゃ楽しみだ」


 その言葉を最後に俺は森の中に駆け出す。

 先導するのはベル。鼻をクンクンと動かしながら森の中を高速で進む。


「どうだ? 匂いは分かるか?」

「わふっ!」



 モンドは姫様のハンカチを持っていた。

 ベルはその匂いを覚え、追っているのだ。


「さて、まだ無事だといいが……」


 姫様は吸血鬼化している。普通の人間よりは強いだろう。

しかし相手は吸血鬼狩りヴァンパイアハンター。吸血鬼の専門家だ。見つかれば助からないだろう。急がなくちゃな。


 そう思いながら走っていると、突然右側からガサッ、という音がする。

 とっさに聖剣を抜きガードする。すると重い衝撃が剣を持った腕に走り身体が左に吹き飛ぶ。



「おわ……っと!」


 空中で二回転ほどして、着地する。

 そして先程まで俺がいた場所を見てみると、そこには一人の男が立っていた。


 身の丈ほどもある巨槌ハンマーを持った戦士がそこにいた。男は武器を構えながら大きな声を出す。


「何者だ! 貴様も吸血鬼の仲間か!」

「おいおい、人をいきなり殴りつけておいてそりゃねえぜ」


 男の持っているハンマーは色から察するに『銀』で出来ている。

 身にまとっている服には十字架の模様があしらわれている。こいつが吸血鬼狩りヴァンパイアハンターなのは間違いないだろう。


(いちおう【鑑定】……っと)



【レミオール・カストディオ】

レベル:56

モントール公国出身の戦士。

吸血鬼狩りヴァンパイアハンターを生業としている。

二つ名は『爆縋』。



 モントール公国は確か南方にある小さな国だ。

 結構遠いはずだが、あんなところからわざわざこんなところまで来たのか。仕事熱心なことだ。


「答えろ! 貴様も吸血鬼の仲間なのか!」

「うるさいな……そうだったらなんだって言うんだ?」


 そう答えるとレミオールは歪んだ笑みを浮かべる。


「だったら正義の名のもとに粛清するまでだ」


 銀のハンマーを振り上げ、襲いかかってくる。

 しょうがない、さっさと片付けるとしよう。


「くらえッ!」


 レミオールが思い切りハンマーを振り下ろしてくる。

 俺はその一撃を、左手で正面から受け止める。


 ズン、という衝撃が腕にのしかかるが、この程度なら問題ない。


「な……っ!?」

「どうした? 力自慢じゃないのか?」


 レミオールは必死にハンマーを動かそうとするが、俺がガッチリと握っているためハンマーはピクリとも動かない。


 俺はがら空きになった相手の胴体を蹴り飛ばす。

 その一撃をもろに食らったレミオールはハンマーを手放して吹き飛び、木に激突する。


「が!?」


 地面に倒れる男。

 まだこいつには聞きたいことがある。俺は近づいて体を起こし、男と至近距離で目を合わせる。


魅了視チャームアイ


 この技は相手を催眠状態にかける技だ。

 この状態になると意識がほとんどなくなり、俺の聞いた質問には答えてくれるようになる。


「仲間はどれくらいいる」

「……五人、です」


 ふむ、こいつと同じ強さが五人だとしたらたいした障害にはならなそうだ。


「そいつらは今どこにいる」

「……北西部の、岩山。そこに吸血鬼が隠れている……らしい」

「そうか」


 必要な情報は手に入った。俺は男をその場に残し男の言った方向に駆けるのだった。

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