第23話 影の指揮者

 よく晴れた日のこと。

 俺はいつも通り畑仕事に精を出していた。


 ちなみに今日はヨルが手伝ってくれている。

 吸血鬼は日光が苦手なものだと思っていたけど、それは下位の吸血鬼、たとえば『劣種吸血鬼レッサーヴァンパイア』や『食屍鬼グール』などに当てはまる特徴らしい。


 ちゃんとした吸血鬼は日光を克服している。回復能力も高いし、普通の人間では銀の武器を使わないと倒すのは難しいだろうな。


「リック、こっちは終わった」

「もう終わったのか。ありがとな」


 ヨルがつばの大きな帽子を揺らしながら近づいてくる。

 日光を受けてもダメージは受けないけど、それでも嫌いではあるみたいだ。吸血鬼の本能みたいなものだろうか。


 ちなみに俺は日光に対する苦手意識はない。

 『夜の支配者ナイトロード』なんてものになったから少し不安だったけど、杞憂だったな。


「あ。これもそろそろ収穫出来そう」

「それは待ってくれ。俺がやる」

「え? なんで?」


 不思議そうにヨルが首を傾げる。

 他の植物なら問題ないけど、これだけは他の人に任せられない。


「これは『マンドラゴラ』って植物だ。一見すると普通の植物にしか見えないけど、これの根っこには顔があって引き抜くとそこから大きな声をだす。それを近くで聞くと精神異常を起こすらしいんだ」

「マンドラゴラって伝説の植物じゃなかった? なんでそんなものが畑に……」


 ヨルは精神異常を起こすことよりも、マンドラゴラが畑にあることに驚いていた。

 俺も感覚が麻痺しているけど、そのリアクションが普通かもしれない。最近はリリアも驚かなくなってきたのでこういうリアクションは新鮮で助かる。


「じゃあどうやって収穫するの?」

「コツがあるんだ。まあ見ててくれ」


 マンドラゴラの側にしゃがみ込み、地上に出た葉の部分を持つ。

 そして神の目の力の一つ『透視クリアアイ』を発動する。


「口は……こっちか」


 透視クリアアイを発動したことにより、土の中にあるマンドラゴラが透けて見えるようになる。

 頭の中で抜いた後にやることを想像シミュレートし、それを実行に移す。


「ほっ」


 スポッとマンドラゴラが抜ける。

 するとマンドラゴラは口を開けて声を発しようとする。しかし俺はそれより早く手に黒いナイフを生成・・し、マンドラゴラの口に突っ込む。


「オギャッ……ッパァ!?」


 口の中にナイフを突っ込まれたマンドラゴラは短い断末魔を上げ、絶命する。

 ふう。これをやる時はいつもハラハラするな。


「リック、今のは?」

「マンドラゴラはこうして仕留めるのがいいらしいんだ。埋まってるところを仕留めるやり方もあるらしいんだけど、叫ぶ直前に口の中を一突きすると一番鮮度がいいらしい」

「そうなんだ。でもそんな芸当出来るのリックくらい。私はやらないほうがよさそう」

「マンドラゴラの叫び声が吸血鬼に聞くのかは分からないけど、危ないことをやる必要はない。どうしても俺がいない時にマンドラゴラが必要になったら、埋まった状態で草の生えてる部分を刃物で突き刺してくれ。鮮度は多少落ちるがそれでも収穫は出来るはずだ」

「分かった。それにしてもリックは物知り、すごい」


 ヨルは目を輝かせて尊敬の眼差しを向けてくるが、これも全部神の目で得た情報なので素直に受け取れない。

 【鑑定】すると対象の大雑把な情報を知ることが出来る。そしてその情報を更に深く掘り下げることも出来る。

 マンドラゴラの採取方法もそうやって知った。


 スキルの力も本人の力だ。というのが一般的な考えだけど、俺はそうは思わない。

 神の目に頼り切りじゃなくて俺自身ももっと強くならないとな。


「それにしてもリック、力の使い方が上手くなった」

「ああ、この力のことか。まあ毎日練習してるからな」


 俺は手から黒い影を出して操ってみせる。

 これは夜の支配者ナイトロードのスキル『夜王絶技ナイトアーツ』で使える技の一つ『影の指揮者シャドウマスター』だ。


 変幻自在の影を生み出し、マントや手、刃など様々な姿に変えて操ることが出来る。

マントにして纏えば鎧になり、鋭くすれば武器になる。使い方は無限大、便利な技だ。


「スキルは使えば使うほど磨かれるってバラドが言ってた。きっとリックのスキルももっと強くなる」

「へえ、阿呆あいつがそんなことを。それは楽しみだな」


 夜の支配者ナイトロードになったことで人間のレベル制限キャップとやらを超えることも出来た。

 俺はもっと強くなれる。

みんなを守れることはもちろん、強くなることは純粋に楽しかった。


「さて、と。これくらい採ればしばらく保つだろう。帰るとするか」

「うん」


 差し出される小さな手。

 俺はそれを握ると一緒に家に帰るのだった。

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