第12話 エルフVSオーガ
森に住むエルフは、当然のごとく森での戦闘に長けている。
木々の間をすり抜けるように矢を飛ばす弓の腕。自然の力を味方につける魔法の数々。
彼らは森の中であれば、たとえ相手が『竜』であっても負けない自信があった。
しかしその自信は、いとも容易く崩れさることになった。
「これで全員か!? 急いで中に入れ!」
樹上に作られた家の中に逃げ込むエルフたち。
彼らの村は既にオーガの手により壊滅させられてしまい、無事な家はエルフたちが避難している建物のみになってしまった。
「来たぞ! 弓兵前へ!」
エルフの族長リシッドの号令のもと、弓兵たちが矢を放つ。
その矢は進軍してくるオーガたちに降り注ぐ。しかしオーガたちは手にした武器でそれらを打ち払い、勢いを止めることなく向かってくる。
「化け物め……魔法を放て!」
今度はエルフの魔法使いたちが魔法を放つ。
エルフの得意とする風の刃が複数放たれ、オーガの体に命中する。だがオーガたちの着用している鎧は硬く、その刃を弾き返してしまう。
何人かのオーガは刃が鎧を装備していない部位に当たりその場に崩れ落ちるが、まだオーガは百人以上いる。戦況は変わらずエルフが不利であった。
「……まだ戦える者は何人いる」
「弓兵が十名、魔法兵が五名、そして戦士が二十名ほどになります。後は負傷し動くことが出来ません……」
「そうか」
族長はギリ、と歯噛みする。
普通オーガと戦う時は、三人一組で戦うようにしている。それほどまでにオーガは強く、厄介な存在なのだ。
だというのに今はオーガの方がエルフの約三倍の兵力がある。
勝機がないのは明らかであった。だが、
「……女子供だけは逃さなければならぬ。そのためには我々が奴らを抑えなければならない。悪いが私と共に死んではくれぬか」
族長のその言葉に彼の部下は驚いたように目を開き……そして笑みを見せる。
「もちろんです。お供いたします」
他のエルフの戦士たちも族長の言葉に頷き、同意する。
「……感謝する。お前たちは私の誇りだ」
族長は自分の得物である槍を手にし、近づいてくるオーガを見る。
「行くぞエルフの戦士たちよ! 我らの民を守るのだ!」
族長の言葉に鼓舞されたエルフたちはオーガの群れに突撃する。
仲間を守るため、決死の覚悟を決めたエルフたちの攻撃にさすがのオーガたちも押される。
『グ、コイツラ……!』
「はああああっ!」
エルフの必死の攻撃の前に、一体、また一体とオーガは倒れる。
しかし戦力の差はすぐに結果となって現れる。
「はあ……はあ……」
普段以上の実力を発揮したエルフたちは数分で体力の限界が訪れ、動きが鈍くなってしまう。
オーガたちはその怪力でエルフたちを圧倒し始める。
そして遂にオーガの内の一体がエルフたちを突破しその奥に入り込んでしまった。
「しま……っ」
彼らの背後では戦えない女性と子供が避難を始めている。
そちらには最低限の戦力しか割いていないので、襲われたらひとたまりもない。
族長が急いで戻ろうとするが、他のオーガがそれを許さない。
『ドコヘイク! キサマノアイテハオレダ!』
「卑劣な……!」
振り下ろされるオーガの斧をなんとか受け止める族長。
そうしている間にオーガの一体が逃げるエルフのもとにたどり着いてしまう。
護衛についていたエルフがオーガに果敢に切り掛かるが、呆気なく切り伏せられてしまう。
同胞の血で赤く染まる斧を見た女性と子どものエルフたちは顔を青ざめ絶望する。
「やめて……」
懇願するがオーガは当然聞く耳を持たない。
女子供を逃せば、いずれその子や孫が復讐に来ることは容易に想像がつく。それを看過することは出来ない。
『シネ』
振り上げられた斧が下ろされる。
終わった。誰もがそう思ったその瞬間、戦場を一つの影が駆け抜ける。
「そこまで――――だ!」
駆け抜けた影は思い切りオーガを蹴り飛ばす。
するとオーガの巨体は空中を舞い、地面に落下する。数百キロは下らない巨体が飛ぶなどあり得ない光景だ。
エルフとオーガ、両者ともに驚き目を丸くする。
「……なんとか最悪の事態が起こる前に着いたみたいだな」
現れたのは黒髪の少年であった。
エルフでもオーガでもないただの人間の出現に両陣営は困惑する。
その人間は辺りを確認した後、背負っていた少女を下ろす。
よほど速く走ったのか、その少女は目を回していた。
「大丈夫かリリア? 立てるか?」
「ひゃ、ひゃい。大丈夫でしゅ」
ふらふらとしながらも、その少女、リリアは自分の足でしっかりと立つ。
そんな彼女のもとに、エルフの族長が駆け寄ってくる。どうやら上手くオーガを振り払えたようだ。
「リリア! どうして戻ってきたんだ!?」
「パパ! 良かった無事だったのね!」
族長リシッドと少女リリアは親子であった。
父の無事を知ったリリアは瞳に涙を浮かべる。
「外の人間に助けを求めてくるって言ったでしょ。だから戻ってきたの」
「それは建前ではないか! 私はお前に逃げて欲しかったのだ!」
人間がエルフを助けに危険な森に来る可能性は低い。
冒険者であれば依頼という形で引き受けてくれるかもしれないが、とても依頼出来るようなお金は用意できない。
しかしリシッドは娘に生き延びてもらうために、助けを求めるよう命じたのだった。
「……そうだったのね。でも安心してパパ。私凄い人を連れてきたから」
「凄い人だって?」
リシッドの視線が、黒髪の青年に移る。
エルフから見ても、容姿の整った青年だ。しかし体の線は細く戦士には見えない。
とてもオーガの大群に勝てるようにな人物には見えなかった。
その青年、リックはリシッドと目を合わせると、力強くこう言った。
「任せてください。この村は俺が守ります」
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