第6話 強引な手
「そう……ですか」
俺の返事を聞いた姉さんは、残念そうに呟く。
姉さんの気持ちは嬉しい。俺を庇うということはかなり危険な行為、父に知られたら相応の罰が待っているだろう。それなのにここまでやって来てくれたのだから。
「その気持ちは変わらないのですね?」
「はい。姉さんには申し訳ないですが」
そう言い放つと、姉さんは静かに目を伏せる。
そして小さく「リン。お願いします」と呟く。
「?」
何をお願いするんだ?
そう思っていると、突如向かいに座っていたリンの右腕が
いや、正確には消えたと錯覚するほどの速さで動いた。
並の目じゃ消えたことにすら気づかないほどの超スピード。現に近くに立っているソフィアはそれにまだ気がついていない。
しかし俺の目はそこらの凡眼とは違う『神の目』だ。
しっかりとリンの腕の動きを捉えていた。
(手に握っているのは……ナイフか。袖の下に隠していたみたいだな。表面が濡れている? これは毒の可能性が高いな。触らないようにしないと)
刹那の間にそう判断した俺は、頬めがけ放たれたその一撃を、左手でパシッと受け止めた。
ナイフを触ると危ないので、ナイフを握っているリンの手をがっちりつかむ。これなら投げることも出来ないだろう。
「な――――っ!?」
渾身の一撃を受け止められ、リンはいつも不動の表情を大きく驚きに歪ませる。
こんなに驚いた表情を見るのは初めてかもな。
その隙に俺はナイフを【鑑定】しておく。
【アサシンナイフ】ランク:C
切れ味は鋭いが数回使うと駄目になってしまう。
表面に睡眠性の毒が塗布されている。
「睡眠性の毒とは穏やかじゃないなリン。いつからこんな危ないものを俺に向けるようになったんだ?」
「そんな……ありえない……っ!!」
ぐいぐいと腕を引っ張り、リンは俺から逃れようとする。
しかし俺と彼女の筋力差は歴然。当然抜け出すことは出来ず、リンの顔に焦燥が募っていく。
「そんなに離れたいなら離してやるよ。
パッと手を離した後、すぐに左手でナイフをひったくる。
刀身部を掴まざるを得なかったので、手の平に影をまとわせて、だ。こうすれば皮膚から毒が入ってくることもない。
「さて……こんなことをした理由を教えてくれるか?」
ナイフを片手で握り潰し、机に数秒前までナイフだった
それを見て二人は強い焦りを浮かべる。俺は城にいた時、お世辞にも強いとは言えなかった。
色々あって強くなったとは話の中で言ったけど、ここまでとは思わなかったんだろう。驚いて当然だ。
「……申し訳ありません。不敬は承知の上、事が終わればどのような罰でもお受けします。その代わり……今は眠っていただけませんか」
「断る。俺は俺の道を生きる」
俺の返事を聞いたリンはしばらく目を閉じ……開ける
「残念です」
再びリンの腕が消える。
今度は両手だ。先程はナイフを持っていたが、今度はそれよりも小さな投擲用の刃物『
「――――シッ!」
両手に握られた六本の鏢が放たれる。
狙う場所は頬、腕、肩、など様々だ。どこかに当たれば毒で眠らせられる、狙いをバラけさせるのはいい手だ。
だが、
「数を増やしたところで――――!」
両手に影で作った短剣を生み出す。
それを高速で振り、襲いかかる鏢を全て撃ち落とす。
「馬鹿な……あの数の攻撃を一瞬で見切った……!?」
驚愕するリン。
一方姉さんとソフィアは高速で展開する流れについていけずひたすらに困惑している。
……さて、どうしたものか。
リンは驚いているけど、まだ諦めた様子はない。このまま火の粉を払い続けても堂々巡りだ。
だったらちゃんとやらなきゃな。
覚悟決めた俺は椅子から立ち上がり、言う。
「外へ出よう。そこで気が済むまで相手しよう」
「……望むところです」
俺の提案に、リンはそう即答するのだった。
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