第277話

「、、思ったより鈍ってないみたいだが、お前がソロを弾くパヴァーヌは、私とオルガン、それに途中で聖歌隊にも歌って頂く。

、、もっと音量を出さないとだめだね。

解釈力や、指回しは前より良くなったが、弓の技術が落ちたように思うよ。、、指や手首ももっと使わないと。、、ちょっと触るぞ。」


ヨハンは、父とモニカ、教会のオルガニストと一緒に、葬儀を行う教会でリハーサルをしたあと、オルガニストとモニカが抜けてから、父に合わせ練習を兼ねてレッスンを久しぶりにつけてもらうことにした。


父はヨハンに昔習ったときのように、厳しく指摘しながら、今は父より筋肉で太くなった手首や腕を小さい頃したように優しく掴んで、弓の扱いをレクチャーする。


「、、今やったように弾いてみて。

あと、原曲はここはフルートソロだね。別にヴァイオリンとフルートは別物だから違って良いけど、ヴァイオリンは低音もフルートよりは出るからと言ってしっかり出だしから弾きすぎてる。

、、さっきもっと音量を出せって言ったけど必要な箇所では足りないのに最初ってからデリカシーなく出し過ぎでもある。音が無から始まり、終わる時には消え行く余韻を意識すべきだ。特にそれが必要な曲だ。今の弾き方じゃお前の思うままに弾いてるだけだね。、、今回この曲を弾く目的を考えろ。ジャズとは違うぞ。」


ヨハンは父に久しぶりに厳しくレッスンされ、的を得た指摘に悔しくなりながら、父が手本に弾くのを聴く。技術はもちろん自分など全く足元にも及ばないので、そもそもの音量のレンジや深みが違うが、言葉通り、音が始まる前から消えた後の余韻まで、意識してコントロールがなされている。父は感情的な性格だが、ヴァイオリンを弾く時は没入して曲を感じながらも曲の情感に感情をコントロールされてしまっていない。そうなってしまうと良い演奏が特にクラシックではできないことはヨハンもよくわかっている。


それで、昔はヨハンは冷静に弾きすぎて、表現が足りないと父に言われるだけでなくコンクールや他のレッスンでも言われたが、ジャズをやってからは変わったようで、今度は父にもっとコントロールしろと言われている。


(やっぱり難しいし父さんみたいには弾けないしあんなに一音一音に色をつけられないのが不甲斐ない気持ちになる。。自分でやるって決めたけど、、簡単に褒められる環境でいい気になって楽しく弾いていた代償は大きい、、鈍ってる上にさらに課題もある。)


「、、私が弾くならこんな感じかな。

、、でもまあ、、昔に比べたら思い切って弾けているみたいだし、メトロノームじゃなくお前の音楽にはなってる。ただ少し、、なんて言うか荒削り過ぎるし全体としてはでこぼこしていびつみたいな印象なんだ。、、普段の私はお前みたいにきちんとはしてないから私が言えた義理じゃないかもしれないが、、全体的なバランスやコントロール、計画性が今は見えてない。、、性格的にはお前は得意なはずだけど。」


久しぶりに父の抽象的な表現を聞きながら、ヨハンが自分なりに父の言葉を消化しつつヴァイオリンを構えていると、突然教会の扉が開く。

ヨハンとリチャード、そして2人を見守っていたカザリンが後ろを振り返る。



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