第276話
モニカは、ルノーの遺品の前で祈ったあとは、誰とも視線を合わせずに憮然としてソファに座り、たまに出された紅茶を飲んでいる父を不安げにチラチラ見ながら、ヨハンとカザリンにルノーの好きな音楽について話す。
父は、帰ると言っていたが、帰るならカザリンが今すぐ、父の通常公演のギャラ代に相当する額を、葬儀での演奏ギャラとしてウェブから送金する、返金してきてたら、父からもらった婚約指輪と結婚指輪について、代金を折半にすることにして送金すると条件を出されてしまった。
それがプライドの高い父の琴線に触れるようで、父は心理的にカザリンにコントロールされ、渋々ソファに座っていた。
ヨハンはカザリンを改めて怒らせたくないと感じた。
「ルノーは、実は高校と大学時代にオーボエをやっていたんですよ。オーケストラ部で。ただ学校の楽器を借りていたからオーボエは持っていなくて、、クラシックギターなら趣味で弾くのでありますが、、。」
モニカはヨハンに微笑んで話す。
「ええっ!!オケをやってらしたんですか?オーボエかあ、、。余計にもっと仲良くなりたかったなあ、、。では、クラシックも聞かれるんですね。特に好きな作曲家とかは?」
ヨハンはケータイにメモしながら詳しく尋ねる。
「そうね、、クラシックも、あとはクラシックに限らず適当になんでも聴いてたけど、、
フォーレ は好きだったかな。あとチャイコフスキー。オーボエが活躍する曲が多いからって。」
「なるほど。参考になりました。ギターも弾かれるんですね?」
「ええ、それは働きだしてから始めたみたいだけど。、、最近はカザで忙しくて弾けてませんでしたね。月に数回だけ帰ると弾いていましたが、、。ルノーは、実家の教育方針で色々、、音楽に限らず習得はしたみたいですが、弦楽器は経験がなくてやりたくなったみたい。ギターなら弾き語りできるしジャンルを問わないしって。
、、私は楽器は全然だめなんですけど、ルノーとは、あ、ルノーは大学院はフランスでしたが、、大学院が一緒で私はグリー部だった。だから、私の歌と、、できるねって、、でも、結局数回しかできなかったな、、。」
モニカは楽しい記憶を思い出しながら笑顔で話していたが、涙ぐんでしまう。
「大丈夫ですか?、、でも、モニカさんと数回でも演奏できてきっとルノーさんも楽しかったと思います。モニカさんは、、どのパートだったんですか?グリーでは。」
カザリンはモニカの片手を取り、視線を合わせて励ましながら訊ねる。
「、、ソプラノじゃないかな。、、綺麗な澄んだ高音が自然に出ているから。地声が高めで繊細なので、無理がないように聴こえます。私は声楽は門外漢だが、、。カザリンだったらきっとメゾだね。中音が深いから。」
いきなり不機嫌に黙っていたリチャードが話だし、カザリンはリチャードに驚き視線を合わせる。リチャードは先程のようにモニカを睨みつけてはおらず、でも微笑んでもおらず、ヨハンもモニカも意図を測りかねた。
「、、え、ええ、、ソプラノでした。さすがですね。」
モニカは微笑んでリチャードに返す。
「、、モニカさん、先程あんな態度を取った私が言う立場ではないですが、、葬儀でヴェルレーヌさんに歌って頂くことは可能ですか。
、、ヨハンと、、私と、、もし可能ならオルガニストと、、伴奏しますから。
、、、私は以前、妻を亡くしました。、、妻は葬儀で私に弾けと生前に言ったので、、私は今の貴女のように精神的に辛かったけれど、、なんとか一曲だけ弾いたんです。、、ヴェルレーヌさんもお一人での旅立ちは寂しいかも。貴女が歌って下さったら心強いかもしれない。
、、私もそう言うことなら、、弾きたいと思っています。
練習期間は短いですから不安かもしれないが、、私は音楽で食べているから、、息子がヴェルレーヌさんにお世話になったお礼ではないが、出来ることがあればやらせて頂けますか?」
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