第13話 femme fatale 2

「料理も来たことだし、そろそろ話すとしようか。ジャニスのことを。」


リチャードは、注文したドリンクと、料理の2品目が来てハンスも砕けてきたところで、白ワインをグラスの半分ほど飲んでから切り出す。


「、、、はい。お願いします。」

ハンスはサングリアをちびちびと啜りながら返す。


「ハンスはどこまで知ってる?ジャニスとはいつまで親交があった?」


「出会ったのは僕が幼少の時、、ジャニスさんは僕と12歳差です。僕がヴァイオリンをヴァイオリン職人の父から教わったばかりの4歳の時に初めて来店して。それから2年ほどたまに教わったりうちの家族とジャニスさんでランチしましたが、、小さかったからあまり覚えてなくて。ただ、ジャニスさんがだんだん元気がなくなって。7歳のときの冬に体調が悪くなってもうヴァイオリンは弾かないんだと母から聞きました。そして物心ついてから、彼女がコンクールが上手くいかずに自殺未遂したから入院したのを知りました。それからの行方を両親に何度か聞きましたが知らないと。。」


ハンスはポテトを皿に取りながら話す。

リチャードは聞きながらはやくもグラスの白ワインを飲み干す。次にはウィスキーを注いだ。

ペースがかなり早いが全く赤くならず、噂通り酒にはかなり強いようだ。


「私は、5年ほど彼女と付き合っていた。彼女が19で自殺未遂するまで。、、彼女のその後は演奏会前に話した通り。今はアメリカの片田舎の実家にいて、全く違うことをやって食べている。

私は、、彼女がトラウマに触れて辛い時に見舞っている。簡単に言えばそういう関係だ。


けど、この話には更に先がある。

彼女が不調だったコンクールでの優勝者は8割がたは私だったんだ。ネットで調べればわかる。、、彼女を追い込んだのは私だということさ。私はそれまでもコンクール歴はあったからわざわざジャニスに被せて出る必要はなかったのに、自分のプライドの高さに負けて、コンクールが不得手だった彼女を追い込んだ。、、お前がこの2年、サポートしてくれ、良くしてくれたコンマスはこんな人間だ。若気の至りとは言え醜かった。。

だから、、私は罪滅ぼしで彼女を見舞っている。彼女も私を覚えていて必要としてくれるから。」


リチャードは話しながらウィスキーを飲み干すと、あらかじめ注文してあったウォッカを手に取りあおる。一方、いつもは食事も多めに食べるのに、リチャードの皿に盛り付けられた食事はあまり減っていない。


「リチャード、ペースがはやい。いくらお前でもそんな飲み方したら響くぞ?」


ビリーは紹興酒まで来たのを見てリチャードがそれを注ごうとしたため止める。

リチャードは大人しく手を引いたが、ハンスはやはり話を聞いて動揺が激しく、肩と、テーブルに乗っていた片手を拳にして震わせて、リチャードを睨む。


「なんでそんなことをしたんですか?

、、輝かしいキャリアを持って、実力も才能もあって、団員にも分け隔てなく接して慕われるようなあなたが!!

、、そんなことを彼女に、どうしてしたんですか?わざわざ弱者を追い込むようなことなんて、信じられません。単にプライドが許さず,彼女に演奏で負けたくなくて追い詰めた、なんて。。」


ハンスは、あまりのショックで声を震わせ涙ぐむ。

リチャードはそれを見ながらとうとう紹興酒まで口をつけてから、さすがに少し酔ったのかややハイになり、ハンスを煽るように更に掘り返した。


「信じられないなら転がっている証拠でも探してみるか?

私と彼女が付き合ってたとき下らないマスコミに追われたりもした。下世話な話が好きな輩が雑誌やネットのアーカイブでも取ってあるだろうよ。自殺未遂より少し前からの私と彼女の不仲までは掴んでいたみたいだぞ。さすがに、私が彼女の自殺未遂の原因とまではわからなかったみたいだがな。」


「それ以上飲むのはやめろって言っただろうが!、、、すみません、彼の頼んだ酒は下げて。代わりにノンアルコールのメニューと水を。」

ビリーは立ち上がり,リチャードに声を荒げると、個室のドアを開き店員に指示した。


「、、お前だって随分飲んでるだろ。」

「俺は悪酔いしてハンスに絡んでないからな。ハンスが泣いてるだろ。お前はしばらく黙ってろ。」


ビリーは店員が去ってから、リチャードに言い返してからハンスの隣に座る。



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