第41話 衝突1
サイモンは、先週のロープウェイでの一件からミカエルに腹はたっていたが、それに加えて更に面白くない事態が発生しとりわけ不愉快な気持ちでリハーサルに向かった。今朝、楽団のステージリハーサルに行く前に起きると思わぬメールが来ていたのだ。そして、その原因はミカエルなのは内容から明らかだったため、到着するなりミカエルに詰め寄った。
「、、珍しくギリギリではないのですね。おはようございます。」
ミカエルは舞台に上がると、詰め寄ってきたサイモンにもいつも通り涼しい顔で対応する。
サイモンと違い、日本での習慣もあっていつも早く来ている中本はサイモンのただならない様子に不安に思い、ヴィオラを弾きながら二人をちらちらと見つめる。
他に早くいつも来ている数人もサイモンの様子から心配げにそちらを見ながら音出ししている。
「これ、朝メールが来てましたけど。あんたが俺にオファーするように仕向けたんですよね??確かに貴方よりは吹けませんけど、情けをかけられたりしたくありません!あなたの力なんか借りずとも、自分で仕事なら取りますよ!
やめてくれませんか、こういうのは!!」
サイモンはミカエルを殴りはしなかったものの、声を荒げるとメールを印刷した紙をミカエルの譜面台に叩きつける。ミカエルは静かに座ったままそれを一瞥してから、サイモンに目を向けた。
「、、私がスケジュール的に受けられない仕事なので、貴方以外にも複数知っているフルート奏者は推薦しましたが。スケジュールが空いていたのが貴方だっただけでは。
、、それに、嫌ならば断れば良いと思います。そんなに嫌がるとは思わずすみませんでした。」
ミカエルは淡々と言うと、メールを印刷した紙を片手で取り、サイモンの瞳を見て差し出すが、サイモンはそれを払いのける。
「これが嫌なんじゃないですよ。
俺が家に仕送りしてるから、自分よりキャリアがないし吹けないから譲ったつもりですか?
そう言うのやめてほしいって言ってるんです!!俺はあなたのコネなんか使わずに自分の力で仕事は取ります!」
サイモンが大声で話すので、早く来ていた団員は僅かだったがざわついた。
「ははは、、コネなんか使わない、ね。」
滅多に笑わないミカエルが突然この状況で笑い出したので、サイモンは驚いてミカエルを見つめる。
「何がおかしいんです?」
「、、私が短い期間とは言え、貴方も師事したソランジュ先生に師事したことがあるのは知らなかったんですね。」
ミカエルはいつもの調子に戻るとサイモンを冷静に見つめた。
「、、そうなんですね。知りませんでした。中退した音大で少し習いましたが、それがどうかしました?」
「、、コンクール歴もそこそこ、音大は二流どころを停学、素行要因のプロオケ懲戒処分や窃盗歴まである貴方が、本当にオーディションでの演奏だけで通ると思いましたか?
、、確かにうちの楽団はカーテン越しに演奏させますし、コンクール歴や師事歴だけでは落としません。演奏重視ですが、それでも実際は書類が第一関門です。
、、私がソランジュ先生からあなたを書類だけで落とさないように言われなければ、書類だけであなたを落としていたと思います。
貴方はすでにコネを使っていますよ。」
「、、なんで今までそれを黙ってたんですか!!」
サイモンはミカエルに再び詰め寄る。
「言う必要性もなかったからですよ。」
「何だと!!俺は!!」
サイモンは激昂してしまい、ミカエルの譜面台を蹴り倒すと、ミカエルに殴りかかる。
中本は慌てて他の男性団員数人と止めに入る。
「ちょっとサイモン!!やめよう!ステリハ前なんだし。ミカエルとは後で話し合って、」
中本はとりあえず譜面台が危ないためもう一度立ててから遠ざけると、サイモンの手をミカエルの身体からなんとか遠さげたが、サイモンにそれをかわされて、サイモンより背がずっと小さく痩せた中本はステージの端に頭をぶつけてしまい、気絶する。
サイモンは力が強いため、他の団員をかわしてミカエルに向かって行く。
「!!中本さん!!大丈夫ですか?」
今到着したらしい、セカンドヴァイオリン首席でサイモンと年があまり変わらないライオネルが驚いて、ヴァイオリンを客席に置き舞台に上がると、気絶している中本に駆け寄る。
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