第31話 雨だれ4
ヨハンは、父が目を覚ましたのを見て声を上げる。
「父さん!!熱、大丈夫なの??」
「、、ヨハン?、、、私は、、?」
ヨハンが声かけると、父は目を開き、呆然としながら訊ねる。
「ヨハンを探して、雨の中傘もささずに歩き、風邪をひき高熱で倒れたんですよ。
、、かなり熱が高かったので一晩だけ病院に泊まるよう医師から指示が。大事にならなくてよかったですね。背が無駄に高いあなたを運ぶのは苦労しましたよ。」
ミカエルはリチャードに腕組みして、少し責めるトーンで話す。
「ああ、、、それは本当に悪かったよ。今度食事でも奢るから許して、ゴホッゴホッ、、。」
「あら、リチャードさん。目が覚めたのね。だめよ。もう40度近くないとはいえ、熱は高いんだし、お医者さんから許可が出るまで大人しくしていて下さい。気管支炎なんだそうよ。」
ヨハンの母方の祖母のゾフィーが、ミカエルとヨハンにドリンクを買ってきたらしく渡しながら言う。リチャードの背をさすり、リチャードにも水を渡した。
「すみません、ゾフィーさん。ありがとうございます。」
「父さん、あのさ、」
ヨハンが父に謝ろうと考えていると、父はこちらを睨むといきなり頬を打ってきた。
いくらヴァイオリンの指導の際に厳しくなっても、これまで一回もヨハンに手をあげたことがない父の行動にヨハンは唖然とする。
「リチャードさん、いきなり何を、、心配だったのはわかりますけど、」
「ゾフィーさん、すみません。ですがヨハンと話させてください。」
リチャードは熱で息は切らしていたが、少し咳をしてからゾフィーに言う。誰にも有無を言わせない剣幕だったこともあるし、ヨハンにこれ以上手を上げるとも思えなかったので、ゾフィーは引き下がる。
「、、どれだけ心配したと思ってるんだ!!!
、、前に言ったよな?夜中に何も言わずにほっつき歩くなって!!最近はベルリンの駅前は治安が悪いんだぞ。お前なんかいくら大人ぶっても犯罪に遭ったら一発で命を奪われる。
、、それに、ミカエルやコンスタンツェさんたちにも迷惑をかけて。」
「それは父さんが僕の話を聞かないからじゃないか!、、イザベラにヴァイオリンを教えてやってよ!」
「話なら聞いた。お前の望む回答じゃなかっただけだろ。人が自分が望むように動かなければ、困らせて良いと?そう言いたいのか?」
「父さんは全然僕を認めてくれない。どんなに頑張って、、結果を出しても!!
どうしたら僕を信じて、認めてくれるの?
僕は父さんと同じにはなれないのに!
父さんほど自分が弾けるようにならないことくらい、自分でわかってるよ。」
ヨハンは泣きはしなかったものの、泣きそうな顔で言うので、リチャードは言葉に詰まる。
「、、、そんなの、まだわかる段階じゃない。、、それに、お前が頑張っているのは分かってる。出してきた結果だって認めている。、、けど、知らなくて良いことや避けた方が良いシチュエーションはある。わざわざぶつかっていく必要なんか、」
「またそうやって嘘をつく!なんでも隠して、その上で僕がレールから外れないようにして、、、何も自分のことは話してくれなくて、僕のことも信用せずコントロールする、、そんなの家族じゃない!、、父さんが僕を信じてくれないなら、、僕も父さんを家族とは思わないよ!、、学校、行ってくる。じゃあね。」
ヨハンが言い返してから出ていくと,慌ててゾフィーも出ていき後を追った。
ヨハンは母親のマリアを失ってから、リチャードが少し疲れていても体調を心配するようなところがあるので、自分が倒れたらもっと取り乱すと思ったがきちんと学校にいく準備はしてきたらしい。
先ほどメガネをかけてようやくきちんと見えたが,ヨハンは制服にカバンとヴァイオリンケースをもっていた。昨晩泣きながらヨハンを探し,雨も気にせず電話にも出ずに人騒がせ極まりなかった自分のほうが未熟に感じられる。
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