第196話
「、、それくらいのほうが若者らしいですよ。
貴方は今まで物分かりが良すぎてね。
暴れられるのは今のうちですから。
私も色々な経験の上で今のようになったので。」
ミカエルはヨハンに、たくさん飲んで食べたのもあり上機嫌で、無愛想なミカエルにしては少し微笑んで話す。
中本はその発言を聞いてミカエルに呆れた視線を向ける。
「、、いや、、その若者につい最近突っかかってる時点で今がそんなに立派になったようにも見えないんだけども。ちょっと反省した方が良いね。」
「そういえばヨハンに頼みがあるんだ!俺!
、、大学入ったらさ!学生オケに入りたくて!でも医学カレッジのオケはオーディションあるんだ!!
母さんと父さんにも見てもらうけど、ヨハンもベルリンに帰った時で良いから俺のヴァイオリン見てくれよ。」
司は突然話題をぶった斬って話出し、目を輝かせて頼んでくる。
「ええ???
、、司まだヴァイオリン続けてたの??
、、、僕がベルリン帰ったときだけで良ければ良いけど、、礼さんや中本さんに見てもらうので十分じゃないか?お二人はプロだし。」
ヨハンは、両親が有名奏者で血を引いているにも関わらず、一切才能を受け継がないどころか、残念ながらヴァイオリンはかなり下手な司がまだ弾いていたことに内心驚きながら苦笑いする。
「まあそうなんだけどさ!昔ヨハン一緒に弾いてくれたりしたじゃん。ヨハンと弾けたら楽しいなー!!
また一緒になんか弾こうぜ!
ヴァイオリンはやってるよ。前より勉強のために頻度落ちたけど、好きだもん。」
ヨハンは司が上手く弾けない上に、両親と比べて下手だと周りから貶されても、昔と変わらずヴァイオリンが好きなことに感動と驚きと呆れを感じつつ微笑む。
ちなみに司と以前デュオしたのは、昔から近所で懇意にしている中本夫妻から父を経由して頼まれたからである。
音程が悪く、弓遣いも不器用な司と合わせるのはかなり気をつかう。
司が確か、両親に憧れて地元のアマチュアオケに入ったは良いが全然着いていけず、礼に優しく指導されながらヨハンが1stヴァイオリンのパートを弾いてやりながら、司の担当の2ndヴァイオリンの練習を行ったのだ。
司の隣で中本がテンポを取りながらやってもズレてかなり苦労した。
司は音感もあまり無く、譜読みは頭が良いのでできるが、テンポ感が壊滅的で、人は頭が良ければなんでもできるわけではないのだとヨハンは学ぶことができた。
「そうだね。懐かしいね。あれは、、ブルックナーだったね。」
「、、ま、ヨハンもしばらくはアメリカにいるし司も忙しいんじゃない?、、司もかなり安定して弾けるようになってきたけどね。あ、、前よりはね。司の、前弾いていた感じよりは、、。」
中本がヨハンの戸惑いを察してか、話をずらしつつ、司の努力について述べる。
ヨハンはそれを聞きながら、当時のことを思い出していたが、あの時、2時間してもテンポがうまく掴めず、いつも明るい司が泣き出したのをふいに思い出す。
自分は父からヴァイオリンについて厳しい指導をされたから、ジュニアオケなどでコンマスをしても人には優しくしようと思っていたが、司のことは理解できず、泣いた司を呆れながら見た挙句、「さっきから教えてるのに」と言ってしまった。
でも、司を溺愛する礼も中本もそんなヨハンを責めはしなかった。子どもだからかもしれないし、2人はどちら側かならヨハン側だったからかもしれない。
「!!、、司、、僕、、あのさ、、」
「?どうしたの?ヨハン?
ヨハンも腹空かないの?なんか食べたら?冷蔵庫に入ってない?」
司はヨハンが言いたくなったことを察してか、察しないでか、いつも通り呑気に笑う。
「、、、僕、わかったよ、、。あの時君にちゃんと気持ちを聞くべきだったし、、今もマグナスにそうしなきゃいけない。、、理解できなくても知ろうとしなきゃ一生分からない、、。
、、あの、、お二人とも!司も!ありがとうございました。
、、やらなきゃいけないことわかった気がします。
司、今度こっち遊びにこいよ。一緒にまた弾こう。」
ヨハンが今日見せていなかったリチャードに少し似ているが、リチャードよりはにかみがちな笑顔を見せてオンライン電話を切ってから、明は司を振り返る。
「ん?父さんどうかした?」
「、、やっぱり司はめちゃくちゃ頭良いや。わざと話したんだろ?」
明は、司はいつもはぐらかすため答えは期待せずに司の頭を撫でながら訊ねる。
「ちょっと!もう子どもじゃないんだからやめやめ!
、、何のこと?一緒にまた弾きたかっただけさ〜。」
司は明の手をどかしてから、足を組んで椅子の背もたれに持たれて飄々と返した。
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