第182話

ヨハンは、髪色を戻して、カラーコンタクトを外してからは初めてアルバイト先に出勤するため、ドア前で深呼吸してからドアを開けた。


「、、お久しぶりです。一週間休みを頂いてありがとうございました。」


ヨハンはいつも通りの調子で事務所に入ったが、シフトが同じ数人と、事務所の主任のオズワルドが顔を上げて挨拶しながら、ヨハンの容姿の変貌に動作を止める。


「久しぶり、ヨハン、、って、、その髪、、目もだけど。地の色はその色だったのか、、。」


動画の技術面を担当している30代の社員が唖然として言う。


「あははは、、そうなんです。」

ヨハンは苦笑いしながら自席に座る。


「何だか誰かに似てるような、、うーーん、、なんかさ、あたしたちがよく動画編集するようなライブハウスの演奏やドラマとかじゃないジャンルでこんな髪色でヨハンみたいな顔の人、いたような、、。誰だっけ?」


電話受けや接客担当の女性社員が考える。


(やばいな、、クラシック界隈とは縁遠い会社だけどやっぱりバレるか?あんまりクラシックに関心ありそうな人はいない会社だけど。)


ヨハンは内心気まずい気持ちで自分のデスクのパソコンをオンにし、メールチェックする。


「あ!!あれじゃないか?なんかピアニストかなんかでいたじゃん。クラシックのさ、なんだっけ、メガネでめちゃくちゃイケメンの、、名前わすれちゃった、、イギリス人じゃなかった?」


動画のデザイン面担当の美大に通う女子学生が話す。ピアニストというのが違いすぎてヨハンは少し笑いそうになったが堪える。


「ほらほら!!さっさと仕事しないと。ただでさえうちは人数が少ないし、今日は商談で居ないから良いけど社長に怒られるぜ。


、、ヨハン、お父さんとの旅行は楽しかった?」


主任のオズワルドが注意すると、一同は黙り仕事し始める。オズワルドはヨハンの横の今日シフトでない社員の空いた椅子に座り、尋ねた。


「えっ!!ああ、、はい。楽しかったです、、

やばいな、いないうちにいっぱいメール来てました。」


ヨハンはなんとか父の話題から話を逸らそうと、実際にアラビア語やドイツ語の翻訳依頼のメールがたくさん来ていたため言及する。


「、、そうそう、ちょっと難し目の依頼があってさ。個室で説明したいんだけど良いかい?」


オズワルドはいつも通り、ポロシャツのポケットに菓子が入っていて、キャンディーをヨハンに出しながら言う。


「そんなに込み入った依頼が、、?わかりました。。」


ヨハンは難しい内容ならアルバイトの自分では力足らずではないかと不安になりつつ、個室に先に入っていくオズワルドに、業務用ノートパソコンを片手についていく。


部屋に入り、オズワルドは先にソファに座り、しばらく話出さないため、ヨハンは訳がわからず首をかしげながら自分もソファに座る。


「オズワルドさん??新規案件のお話があるんじゃ?メールだとどれについてですかね。」


ヨハンは困惑しながらパソコンのメール画面をみせつつ尋ねる。


「あ、すまんね。うそうそ。別の話したかったの。

ヨハンが来たときからさ、なんか見たことある顔つきだなあと俺、思ってたんだよね。

、、俺も音楽にはあんま詳しくないからすぐにわからなかったけどさ、、

古いビデオを君がイギリスにお父さんと旅行に行ってる間に見つけてさ。

、、ヨハン、これを探してる?DVDに焼き直してみたよ。見てみる?」


オズワルドには珍しい遠回しな言い方をされ、さらにはビデオなどと言われて、ヨハンはまさかと思いながらオズワルドからDVDを受け取り、パソコンで再生する。


かなり古いと言うのは本当で、映像はたまに途切れたりなどし、画質も悪いが、はっきりと今の自分よりも若い父が、若いビリーとジャズセッションをする様子が映っている。

今より荒削りな点はあり、今よりも感情を叩きつけるような攻撃的な演奏ではあるが、間違いなく父の誰にも負けない美音のヴァイオリンがヨハンを圧倒する。


「!!これ!!この映像は、、どこにあったんですか??ジャズ部の友人がとある店で一回見つけたらしいんですが、、その後返してから、その店も持ち主に返してしまい、持ち主はいろんな場所転々としてる人で行方が掴めなくて、、。」


「持ち主はうちの社長さ。

、、確かにいろんな商談でいたりいなかったりはするけど、、ビデオは俺が管理してた。めちゃくちゃ古いからね、正直埃かぶって戸棚の奥にあって、、管理って言えるのかはアレだけど、。。」


「、、僕に売ってください!!お願いします、

、。肉体労働でもなんでもして高くても払うので、」


ヨハンは、いつもの落ち着きはなく、オズワルドに食ってかかり強気に言う。


「なんでそこまでして欲しいんだい?

、、、、君の実名、ヨハン•レイノルズだよな?

、、キルヒェナーは君の幼い時に病死したお母さんの旧姓だ。、、リチャード•レイノルズさんのことをネットで少し調べれば簡単に出てきた。、、リチャードさんを調べただけで、君がクラシックヴァイオリンでヨーロッパでかなりの実績があることも出てきた。それなのに君は18才の時のコンクールを堺にクラシックから姿を眩ました。旧姓を通称にし、髪や瞳の色も誤魔化して、、アメリカに来て、、今はなぜかジャズをやってる。


、、お父さんと、、リチャードさんと君はよく容姿が似ている。

容姿を変えたのも旧姓を名乗ったのも、もうリチャードさんと比べられたくなかったからじゃ?


、、君がジャズを楽しそうに活動してるの俺は知ってる。だからこの映像は簡単に君に渡さない。リチャードさんだって自分がジャズを弾いていたなんて言わないだろ?君を苦しめたくないからじゃないの?」










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