第186話

ヨハンが目覚めると、あのあとヨハンが2回もアクセルを求めてしまったのにアクセルは元気に起きており、先に洗面台で髪を溶かしていた。


「おはよう、、アクセル。

僕身体でかいから、、重かっただろ?

2回もやらせちゃって、、疲れて、、無さそうだね。」


「君は確かに大きいけど痩せてるからな。

もっとガタイが良い男性とのほうが疲れるから大丈夫。

1回経験したら楽しかったろ?

ヨハンも一皮剥けたね。過保護な親父さんにぜひ報告しな。」


「またそうやって揶揄って!!父さんになんかいちいち言わないよ。女の子ならそうするだろうけど僕は男でリスクもないし。


、、でも確かに経験できて良かった。

、、、、だめだ、眠って収まるかと思ったのに夢から醒めたような変な感じだ、、。

こんなこといつもやってたら現実感持って生きられなくなりそうだね。」


ヨハンは、快感はあったが自分で言ったとおり、目の前の物事にこのまま接したら現実感がもてなくなりそうな高揚感に戸惑いながら片手で髪を掻き上げた。このままだと何でも勢いで出来そうな気がしてくる。実に良くない。


「、、たまにはそんな君も良いんじゃない?

いつもヨハンは慎重で計画的だからね。」


アクセルは身だしなみを整え終わり、自分のベッドに戻って荷物を整理する。これからヨハンたちは電車で4時間かけてニューヨークまで帰る。


「、、昨晩さ、ミカエルさんが言ったことどう思う?打ち上げでやっぱりマグナスはいつもよりは元気なかったし、、ミカエルさんっていつもは理不尽に怒らないしはっきりした言動だからさ、あんな煙に巻くような言葉で感情的になって、、大量に飲んだわけでもなさそうな顔色だったのにきちんと理由があるはずで、、。


あのままじゃマグナスがかわいそうだし,僕さ、もうちょっと本格的にジャズやりたくて。だからこのままモヤモヤしていたくない。


もちろん僕から、ミカエルさんには聞いてみるけど、、。

アクセルはどう感じた?」


ヨハンは、アクセルの言葉で、確かに勢いに乗ってやるべきこともあると考えながら訊ねる。


ヨハンは話してから自分も洗面台に向かい、歯を磨く。


「どうって、、。アタシはあのミカエルさんに言ったように、マグナスの演奏は問題なかったしいつも通りなのにあの人の言いように腹が立ったよ。

好みの問題があっても、何がやりたいかわからんとか、下手上手い以前なんて言われる演奏じゃなかった。


、、ただ、、その本格的にやりたいってのは?

ヨハンがジャズを本格的に音大なんかで学びたいの?それともバンドとして公にデビューしたいのか?」


「両方かな。僕個人はもちろん学びたいし、、この5人の演奏をもっと知ってほしい。、、そう思ったきっかけも目的もあるけど、、それは電車で話すよ。」


「まあ、、レーベルからお誘いはたまにあったしアタシは良いと思うよ。ただ、、マグナスはな、、。あの子さ、あんまり目立つのが嫌みたいなんだ。、、オケでもクラリネット1stはやってないだろ?かならず2ndか特殊管クラリネットのはず。


、、前にデビューしようか検討したときも、自分は名前や顔を公に出したくない、って嫌がってさ。

穏やかであんまりあれが嫌、とか普段は強く拘らない子なんだけどね。


、、ミカエルさんのいうことはアタシも意味不明だったが、、マグナスはさ、本人が気づいてか気づかないでか、ヨハンやアタシや他と違って、自分の能力以上は掴もうとしてない感じがする。アタシからは前からそうみえる。

と考えたら、、あのミカエルさんが言いたいのは,もしかしたらそれだったのかもしれないね。


ミカエルさんがどんな人かアタシは知らないし、、それでもあそこまで怒って喧嘩売られたのは悪印象しかないけども。」


アクセルが荷物整理しながら言うのを聞きながら、ヨハンはシャワールームに入る。


「、、マグナスが自分の能力以上のことは掴もうとしない、か。

、、確かに、オケでも1st吹けそうな腕なのに吹かないな、、2ndが好きだからって聞いていたけど、、でもさ、本気でやってないようには見えない。一生懸命やってない?」


ヨハンは話すために、シャワールームの入り口の扉を開けたまま、シャワーを浴びつつ話す。

バスタブ内にシャワーがついている形で、水が飛んだり身体が見えないよう、バスタブとトイレを仕切るカーテンを広げる。


思考がまとまらないとき、シャワーを浴びるのは好きだ。今浴びているのは昨日、体を交えたあと申し訳程度に軽く浴びて寝てしまったからだが、透明な水滴が大量にシャワーから降ってくる様子を見ながらその音を聞いていると、心身が整理される気が昔からする。

特に、爽やかな朝の日差しが窓から刺す中でのシャワーは好きだ。


雨とは違う。雨は空が泣いているかのようだ。ドイツの雨は気温も下がるので身も心も凍えるようだった。

しかも、服も身体も傘からはみ出れば汚れ、地面はぐずついて靴に泥がつく。


「、、一生懸命はやってるよ。ただ、言ったろ?マグナスの認識では、さ。

、、今できる範囲内かそれ以下の中で全力を出すのと、できる以上を目指して全力を出すんじゃ違う。

、、ヨハンはマグナスにどうしてほしい?マグナスとどう演奏したい?、、それ次第さ。」


「、、考えてみるよ。

、、、まずはマグナスと話さなきゃいけないね。あいつと話さないことにはあいつがやりたいこともわからない。」


ヨハンはアクセルに返してから、一人で思考をまとめようとシャワールームの扉を閉じた。

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