第187話

ヨハンたち一行は、荷物整理を終えるとホテルで朝食を食べてから、すぐに駅に向かい長距離列車に乗った。席を前列と向かい合わせにできる車両に乗ったので、ヨハンはアクセルと、マグナスはトランペットの2年生のナイジェルと隣り合って座り、4人は向かい合っている。コントラバス担当で大学院生のロイだけ、コントラバスを持参したため、更にひと席使いたいのと、タバコを吸いたいのもあり通路を挟んだヨハンたちと隣の列にいた。


マグナスとアクセル、ナイジェルはマグナスが持ってきたトランプを使い神経衰弱をしており、ロイは本を読んだりケータイを見たりしながらたまに負けてばかりいるマグナスをからかったりしている。


ヨハンはゲームには入らず、4人の様子を伺いながら通路を面して隣にいるロイと話したり、オーケストラのほうの譜読みをするふりをしていたが、ようやくマグナスが一回だけ負けなかったのを見て頃合いだと楽譜をカバンにしまう。


「、、僕からさ、ちょっとみんなに話があって。

いきなり髪色と目の色変わったのもナイジェルとロイさんからは訊かれたし、、。

そのことも含めて。」

ヨハンが言うと、3人はカードゲームをやめ、ロイは本を一度膝に閉じて置き、顔を上げた。


「単に入学時はイメチェンしてだけじゃないのか?、、染めてた色やカラコンが自然だったから、黒い髪と目なのはたまげたけどな。

どっちもヨハンは綺麗な顔してるから似合ってるよ。」


ロイは真面目な顔で気張った様子のヨハンを励ますように言う。


「ありがとうございます、ロイさん。

その、、マグナスは寮が同室だし、アクセルとは交際していて流れで話したから二人はもう知ってるんだけど、、僕の本名はヨハン•レイノルズなんだ。キルヒェナーは小さい時に癌で死んだ母さんの旧姓で。

、、クラシックヴァイオリニストのリチャード•レイノルズは僕の父さんだ。。


、、騙すつもりじゃなかったんだけどさ、、

父さんが有名すぎてヴァイオリンやっていてベルリンではずっと比べられて、正直メンタルがキツくなったりもしたことがある。

、、これ、父さんの写真、、。同じ髪色で目の色で背丈なんだ。父さんが眼鏡を取ると僕とはとても似ている。


、、だから、僕はヴァイオリンも一度はやめたんだ、、。そんな事情で父さんに心配されたのもあって、母さんの旧姓を名乗り、髪色や目を誤魔化していた。

、、そんな僕も、、みんなと弾くのは楽しくて、また弾こう、今じゃヴァイオリンまた本気で頑張りたいと思えるようになった。

だから、、自分を偽っていたのを謝りたいし、、僕の正体を知っても、、その、、」


ヨハンは話しながら、定期入れにしまってある

若い父と5歳くらいの自分が旅行に行ったときの写真を見せる。ヴァイオリンを自分が始める前に自分の誕生日に父が休みを取り旅行に連れて行ってくれた。ヴァイオリンを指導される前は、父と言い合いになることはなく、いつも楽しく過ごせたことが思い出される。


「、、俺はヨハンが誰の子だろうと別に気にしないかな。、、まあ大物ヴァイオリニストの親父さんが聴きにでも来たらさすがに緊張するけど。髪や目だって何色にしようとヨハンの自由だよ。

俺は、ミドルスクールでペットを始めてからずっと、ビックバンドやブラスバンド、ジャズバンド中心で吹いてきたから、クラシックも弦楽器奏者もよく知らないから余計に分からねえ。


、、、ま、ヨハンがヴァイオリンがまた楽しくなったなら何よりだぜ。、、しけた顔してないで食えよ。

好きだろ?辛いの。」


トランペットの2年生のナイジェルは、自分が食べていたペパロニ風味のポテトチップスの袋をヨハンに向ける。

ヨハンはナイジェルの言葉と微笑みに少し安心し、ポテトチップスを2枚取り、1枚口に入れた。


「サンキュー。

美味いな、これ。ビールに合いそう。」


「ばっちり合うよ。隣の車両との間に酒売ってたから買うと良いぜ。」


「、、僕はなんとなくわかってたよ。

僕はオケや室内楽でも一応弾いてるからリチャード•レイノルズは知ってるし、

彼の息子が入学したらしい、って噂たってたからな。、、ただ彼と違って天パーじゃないし、似てるけどお母さんにも似てるのかヨハンは少し感じも違うし、、うちは学生数めちゃくちゃ多いし、確かに髪色変えてたら分かりっこないな。

、、白状すると髪を地毛に戻してから会ったときは、なるほどヨハンだったかと思ったけどな。、、その辺の音大生顔負けの技術でクラシック本格的にやらないのが不思議なくらいだったし、、弾き方や解釈がやっぱりお父さんに似てる感じはする。


、、だがナイジェルと同じ意見で、ヨハンと個人的に付き合ったり演奏合わせるのに、ヨハンの出自は関係ないさ。


自身を偽ったのも傷ついた過去があってのことだし、、オケ部では違った反応されるかもしれないけど、そしたらこっちにいくらでも来れば良いよ。

オケに専念してる奴らなんかクラシック一辺倒の視野が狭い奴らさ。特に出自で騒ぐ奴らはレベルが低いんじゃないかな。ヨハンが相手にするレベルにない。」

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