第207話
「私は長く受け継がれてきたものを今私たちが吹くことが何なのか、もっと追求してみたかったんです。あとは、やはりクラシックが1番好きだと言うのもありました。
中でも時代によって編成に変化があるオケは面白いです。、、ま、ソリストとしてバリバリやるのは諦めがついたのもあるけれど、、私はやはり複雑なパーツの中で吹くのが好きだから、これで良かったですよ。」
ミカエルほどの奏者も、現状に満足行かなかったことがあるらしい含みのある話し方ではあったが、今は現状に満足なようで、ミカエルは薄ら微笑んだ。
「ソリストもバリバリやられてるじゃないですか!!、、俺、一応クラシックも齧ってきたし、知り合いのフルートの人たちに聞いてもみんなシュルツさんの演奏は憧れてますよ。」
マグナスはクラリネットを片付けながら力説する。
「、、レッスンやる前に話したでしょう?オケで後輩のフルート奏者が潰れたと。あのとき、私は自分にオケよりも向かないソリスト活動でもっと仕事を取ろうと躍起にもなっていた。そんなふうだから上手くいかなくなったんです。
、、、やりたいことと向くことは違うのですよ。リチャードみたいにたまたま同じ人もいますが。そういう人間ばかりじゃない。
、、貴方はまずは逃げずにクラリネットに本気を出すところからですがね。」
ミカエルはマグナスに真剣な顔で話す。再度もっとやる気を出せと釘を刺され、マグナスは何度も頷き勘弁してくれという感じで困り顔になる。
「、、すみません、ですぎた発言でしたかね。俺はそうですね、きちんと向き合うとこから始めます。、、でもシュルツさんにみんな憧れて目標にしてる世界的なフルーティストなのはそうなんです!!」
「目標や憧れにされるより、演奏で楽曲をきちんと伝えられたのか、きちんと私は技術や知識を誰かに伝えられたかが重要です。、、だから演奏もレッスンもしています。、、気持ちは嬉しいけれど。」
ミカエルが見解を述べると、マグナスが少ししゅんとしているので、最後に一言付け足した。昔の自分なら付け足してフォローできなかったし、今も危うくフォローできないところだった。ミカエルは気まずい気持ちになり頭を片手で掻いた。
「ミカエル変わったねえ。昔は女の気持ちはもちろん人の気持ちがわからなそうだったのにねえ。わからないなりに表情くらいは確認するようになったのね。」
レスリーが感動した様子で言うと、ミカエルは頬を赤らめてレスリーを睨む。
「レスリー!、、ここでそんな話は、、。」
「あたし何にも触れてないわよ?人への接し方上手くなったね、って言っただけでしょ?
話にだけ聞いてたアキラにも会えたし良かった良かった。アキラはあたしの写真は見たことあったんだっけ?」
「そうだね。、、ミカエルから聞いていたし。お会いできて良かったよ。、、俺はジャズはあまり弾かないけど、アメリカに来たら君のセッション見たいな。」
レスリーは次の仕事があり、帰るらしく、ミカエル、マグナス、ヨハンとハグしてから明ともハグした。
「ぜひ来てよ!!、、じゃあまたね!
マグナスもヨハンも、レッスンまた受けたくなったら名刺に書いてあるメールに連絡ちょうだいな。バ〜イ!!」
レスリーは最後までハイテンションで、元気よく、そんなに大柄でもない身体でサックスもクラリネットも持って部屋を出た。
「、、レスリーさんとシュルツさん、確かになんだかこう、、距離が近い感じがしたけどお付き合いされてたんですね?」
ヨハンが上目遣いで訊ねると、ミカエルはフルートを磨きながら横目でヨハンを見る。
「余計な機微に敏感なのは無駄に父親似ですね。、、一時期、パリで一年学んでいたときにね。、、スタンツとその間別れたので。」
「えっ!!コンスタンツェさんと??そ、そうだったんですか。父から楽団に入ってお若い時に結婚されたと伺ってててっきり、、」
「リチャードも余計なことを話しますね。
、、私からもリチャードの恥ずかしいエピソードでも話してやるか、、。」
「ミカエル、大人気ないって。どうせあいつ、なんとなく何かのついでに話しただけだって。絶対話したの覚えてないって。
、、それに、レスリーと居たのは楽しかったんだろ?お互いに悪い別れ方じゃなかったんだしまた会えたんだし、良かったじゃんか。」
明がミカエルを宥める。
「、、まあ大人には色々あるんですよ。
、、大人の仲間入りをしたいようなので引っかけに行きましょう。明日演奏するなら景気付けにね。」
ミカエルは明に宥められてムキになるのをやめて、フルートを片付け終わって立ち上がり、ヨハンたちを飲みに誘った。
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