第33話 まだ見ぬ未来2

リチャードは、熱が高く過労もあったため2日ほど入院したが、倒れてから4日後には仕事に復帰した。喉の症状は少し残っていたが、熱はその週には引いたため、仕事をいつもより減らし、以降は週一回の通院となった。ヨハンとは相変わらずぎくしゃくしていたがリチャードが忙しいのもあり夜か朝に一回顔を合わせるだけで済んでおり、コンクールやオーディション、試験もない時期だったので、一ヶ月間そのままの関係が続いた。


ヨハンが土曜に午後からのドイツ中から選抜された若手奏者のオケの練習に行くために準備してから廊下に降りると、たまたまリビングから出てきた父にはちあわせ、父は目を合わせてきたので気まずくなった。



「あっ、、。」 

ヨハンは思わず間抜けな声を出す。


「まだ出るには早いんじゃないか?市内でリハなんだろ。、、昼、食っていかないのか。」


「、、外で適当に食べて行くよ。父さん今日休みだったの?」


ヨハンは不愉快な気持ちで父に言う。


「病み上がりだしまだ喉が治りきらないからな。私も午後に病院に行くから今日のレコーディングはずらしたんだ。、、言いそびれていたけど、この前は心配してくれたのに頭ごなしに叩いたりして悪かった。

、、魚介のポトフ、好きだろう?久しぶりに、家事手伝いのマチルダではなく私が作ってみたんだよ。」


本当に申し訳なく思っているのか、不機嫌からではなく眉間に皺を寄せ、誠意の現れた視線でヨハンの目を見て謝る。


「、、、そうだね、いきなり引っ叩かれてびっくりしたよ。僕もいきなり夜中に出てって不安にさせてごめんよ。、、せっかくあるなら食べて行く。」


ヨハンは父を見て取り急ぎ自分も謝ったが、イザベラのことを断られたのは納得いかないため微笑むことはできず、リビングに向かって足を回転させた。


二人がリビングに入ると、30代前半の家事手伝いの女性、マチルダが料理を並べてくれていた。


「旦那様は風邪気味のためハーブティーでよろしかったでしょうか。ヨハン様にはいつも通り砂糖無しのカフェオレにいたしました。」


マチルダがドリンクについて言う。


「ああ。ありがとう。私はそれで構わないよ。」

「僕も大丈夫です。ありがとう。」


父に続き、ヨハンも答えて席に着くが、父はつかつかとキッチンに入る。


「旦那様?何か足りないものがございましたか。」


「、、言ったようにヨハンとしばらく二人で話したいから、一緒に食事を摂れないだろう。、、私が電話して呼ぶまで一度アパルトメントに戻って娘さんたちと一緒にぜひ食べてくれ。」


レイノルズはタッパを3つ出し、装ってマチルダに渡す。一緒に適当に見繕ったパンも渡した。


「そんな、、こんなに何も支払いもせずに頂けません。電話が来たら戻る件は承知しましたが。」


「、、良いんだ。いつも世話になっているんだから。私が家にあまりいないからヨハンのことも昔から見てもらっているし。これからも、また色々頼むと思うからボーナスと思って。、、

随分安いボーナスで悪いが、、。」


リチャードは、夫が交通事故でなくなり、シングルマザーであまり裕福ではない中,子どもが2人いるマチルダに色々とこじつけて手渡す。

マチルダは貧しいが働きぶりの評判は良く、家事手伝い紹介所でも評判がトップクラスであってみると人柄も良く、口が硬いため信用できると思い、ヨハンが5歳ごろのちょうど11年前から、住み込みではなく朝から夜までの家事手伝いとして雇っている。


「、、ありがとうございます。ご恩は忘れません。では、また伺います。何かありましたら何なりとお呼びください。」


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