第259話

ヨハンがカザリンがオーダーした食事を少しずつ食べていると、今度は司からテレビ電話で着信があり、ケータイを壁にくっついている長机の上に立て、食事しながら出ることにした。


「ヨハン!!良かったあ。やっと繋がったあ!!、、大変だったね、、。なんか食ってるから食欲もありそうで良かった!

ルノーさんのことは俺も悲しい、、。でもヨハンが無事で本当に良かった。」


司は相変わらず癖毛を揺らしながら話す。自宅のリビングにでもいるようで、時間的に夕飯後なのか後ろで礼と明が酒を飲んでいるのが司が座るソファ越しに少し見える。ワインらしきビンを明が持ってきてダイニングテーブルに座り、礼と自分のグラスについでいる。


「家のリビング?自室でやらないの?」


「父さんたちもヨハンが音信不通って聞いて心配してるし、、それに、今日は、」


「ハロー。久しぶり。、、ガザに行ったって聞いてびっくりしたぜ。、、全然チャットも返さないしさ、、生存報告くらいしてくれよ。」

司の隣にはベネディクトが来て、片手を上げる。ベネディクトは片手にドーナツを持って食べており、ミカエルに似た大食いぶりは変わらないようだ。


司は音楽の才能は全くなく、本人は両親に憧れてヴァイオリンやヴィオラに趣味で取り組んでいるが、フルートの道に進んでいるベネディクトや、ギムナジウムまではヴァイオリンを専攻していたヨハンとは近所の幼馴染でよく休日に遊ぶ仲だった。


「ベン帰ってたの?フランスの音楽院に留学中なんだろ?」


「まあね。休暇が取れて、たまにはね。

、、ルーアンでイザベラと会ったよ。落ち込んではいたけど体調は良さそうだった。マネージャーは帰らせたみたいだけどお姉さんが一緒みたいだ。、、イザベラとぎくしゃくしたくらいでガザ行こうなんてちょっとヨハンの思考回路もわからないけど。」


ベネディクトは話してからドーナツを頬張る。


「イザベラが!!、、父さんも彼女どこにいるか知らないみたいでさ、、心配したけど良かったよ、、ガザはイザベラはきっかけだけどやけになって行ったんじゃなく、イザベラを見ていて僕もやりたかったことをチャレンジしたくなっただけだ。、、色々なことから逃げてたら彼女に並べないなと、、。まあ、、結果は尊敬していた上司を死なせてしまって、、僕は役立たずだと身の程を知っただけだったけど、、。」


ヨハンはイザベラの話題には食いついたが、ガザに来た経緯を話し、ルノーの死に触れると一気に表情が暗くなる。食事の手も止まった。


「ヨハンはアメリカに帰るのかい?あんなことがあったんだもんね、、。ヨハンも無理はしない方が良いよ。人間、元気なのが一番だ!」


司はヨハンに尋ねながら、話題で2人が深刻な顔をしているのを破るように明るく話す。


「医者の卵らしいこと言うね。、、元気が一番はそうだな。それに僕は役に立たないし、僕がヘマしたらまた誰かが死ぬかもしれないし、ね。、、司はすごいね。医者なんて命を扱う仕事だし、、司は心臓外科医を目指してる。、、余計に生死に関わる専門だ。」


「なれるかはわからないけどなあ。

、、インターンやって適性を見られてからだし。、、解剖なんかの授業の先生は適性があると言ってくれたけど。楽器はヨハンみたいには弾けないけど、意外と俺、手先器用なんだって!」


司は適性があると言われたのが嬉しいらしくニコニコして話す。


「、、そっか。僕はやりたいことがわからなくなっちゃったな、、。僕たちを襲ってきた強盗、市民らしいんだ。市民も金や食べ物に困って強盗する人もいるみたいで、、でも、ルノーさんを撃ったやつはどうやら軍で訓練されたやつみたいで、ルノーさんがハマスかモサドか、って聞いたら誤魔化したんだよ。、、何が本当なのか、誰を助けても裏切られるような気がして、、国際関係や外国語を学んで平和に、、なんて綺麗事だって思い知った、、大学も辞めようかな、、」


ヨハンは肘を机につき、頭を片手で抱える。



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