第34話 まだ見ぬ未来3

「イザベラのことだけど、」


手先や感性には優れているため、繊細な味付けが得意な父の、久しぶりの手料理に嬉しい気持ちで食べていると、突然父が話し出すので、ヨハンはスプーンを口に入れたまま顔を上げる。


「ああ、予定があると思うから食べながらで良いけど。

イザベラのことだけど、来月から個人レッスンしたいと思うんだ。、、確かにあの子には音楽解釈の才能もあるし、ヴァイオリンのスジも悪くない。お前と比べると粗や雑さがある弾き方だし詰めが甘い感じだが、、。

、、彼女もお前もそれを望んでいる。お前はそれで彼女と対立しても良いと覚悟を決めている。、、そして、私自身ヴァイオリニストとして彼女に興味もある。


、、何より、彼女を想って私を説得し、彼女の未来を本気で考えたお前の気持ちは尊いものだ。私は嫉妬心に負けてジャニスを追い詰めた。私には到底できないこと、、。それを否定して、本当にすまなかった。


それと、私自身のことをお前に色々話さずにいた。、、話せば、私も助かることも多かったかもしれないのにな。、、誰かに話すことに慣れていないんだ。、、知っているように、兄さんが、、お前が会ったことがない叔父が、死んでからはずっと一人だったから。

話しても根本解決は自分がなんとかするしかないから時間の無駄とも思っていた。


でも違ったな。違くなかったら、お前が出て行っていくら頭が真っ白になっても、ミカエルかからの電話にも気が付かずに雨の中薄着でフラフラして熱出すなんてバカはしないさ。

私の両手でできることなんてたがが知れているのだと、今回やっと気がつけた。」


父はそこまでを穏やかに微笑して話したが、風邪が治りきらないため声が掠れ始め、数回空咳をした。


「、、大丈夫?何か飲んだら?

、、やっと気がついたんだね。父さんは人のことはよく見ていても、自分のことは全然だよね。。

お世辞にもヴァイオリンと料理以外は器用にやってるように見えない。


、、イザベラのことは、本当に教えてくれるの?」


「ああ。でも、、もしイザベラと肩を並べることになり、互いを比べて辛くなったら私に言ってくれ。責任を持って、なんとかしてみるから。

、、お前が私を気にしてくれるのと同じで、私もお前が一人で困っていたら悲しいからな。

、、私はいつでも、、お前の力になるからな。」


父は言いながら,煉瓦色のカーディガンのボタンを開け、シャツの第一ボタンも開けると、銀色のロケットペンダントを首から外し、ヨハンの前に置く。


「!?父さんてペンダントなんかするほど洒落っ気あるんだっけ?全然気が付かなかった。。」


「そりゃあ、目立つようになんて着けてないからな。お守りみたいなものさ。、、私にはもう必要ないものだから、、マリアもお前がつけたら嬉しいだろう。」


「必要ない?なんで?母さんと父さんと、、僕で写った大事な写真じゃないか。」

ヨハンは、銀製の表面の真ん中に、小さいエメラルドで加工した鳥の飾りがあるロケットペンダントを開けて、中を見る。赤ん坊の自分が亡き母に抱かれ、そんな母の肩を若い父が笑顔で抱いている。


「、、ヴァイオリンと料理以外は頼りない私の

ことはお前が助けてくれるんだろ?

、、私はもう一人じゃない。お前も含めて今は周りにいろんな人がいてくれる。それがはっきりわかったから、もうその思い出だけに頼らなくて良くなった。

でも、お前はまだまだこれから大変なこともあるし、順当にいけば寿命順なら私がお前より先に居なくなる。そんなとき、世界で一人になった気がするかもしれないだろ。

ま、お前はまだお子様だから意味がわからないか。」


父はヨハンが険しい顔になっているので最後に揶揄うと、子ども扱いされたヨハンはむくれた表情を見せる。


「なんだよ!また子ども子どもって、もう、、がっかりだ、、珍しく褒めてくれたし茶化さずに話してると思ったのに。。でも、、ペンダントありがとう。嬉しいな。いつも3人でいるみたいで。」


ヨハンはペンダントを受け取って長さを調整して首にかけてから、食器をキッチンに下げに席を立った。

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