第285話


「エイドリアンさん!!いらしてたんですね!」

「、、忘れたか?ヨハン。俺の住んでる国はイギリスだからな。フランスとは近いし、、一応君の護衛とは言えガザ仲間だ。ヴェルレーヌさんには良くして頂いたし、、彼を護衛できなかった。。、、自分の気持ちとして来たかったし、来るのはけじめでもある。もう誰も目の前で死なせず護るって言う、ね。」


エイドリアンはあんなことがあっても終始冷静で、取り乱したヨハンの世話やフォローをしながらNGO事務所から頼まれて、しばらく事務所の警護までしていたが、ヨハンの護衛任務がとりあえず終わったあとはイギリスに帰国したと聞いている。エイドリアンもルノーを死なせてしまったことは悔やむ表情だが、あの状況でエイドリアンは数人の犯人を無力化し、ルノーを殺した犯人も無力化し、1人でこれ以上ない活躍を見せている。誰でもルノーをあの状況で死なせないのは無理だっただろう。


そんな信頼できる、そしてあの場にいたエイドリアンにルノーが安らかな表情で亡くなったと言われ、ヨハンはようやく信じる気になった。

しかし、エイドリアンもルノーの死に責任を感じているのが言葉の節々から感じられ、ヨハンはなんとか励まそうとエイドリアンに目を合わせた。


「、、そうなのかな、、あの場にいらしたエイドリアンさんがおっしゃるなら、、そうだったのかもしれません。

、、その、、あの状況でエイドリアンさんがいなかったら僕も他も死んでたと思います。。だから、、」


「そうだよ。エディ。、、お前にとても感謝している。、、ヴェルレーヌさんのことは悔しいし悲しいが、、」


父がヨハンの隣からエイドリアンに心配げに話す。しかし、エイドリアンはそれを片手を上げて遮る。


「よせリック。、、別に悔やんだって変わらないのは知ってる。誰かを護るには、ますます鍛錬や策が必要と確信しただけさ。俺は俺の仕事をするよ。

、、お前の演奏は久しぶりだけど、お前もお前の仕事でこの場に貢献するんだろ?それと同じだ。

、、ヨハンの演奏も期待してる。」


「ありがとうございます。。」

ヨハンが礼を言い、父が黙って心配げにエイドリアンを見ていると、エイドリアンはガザで遺体確認の際に会っているモニカに近づき、挨拶する。遺体確認の際はモニカは動転し、エイドリアンとヨハンになぜルノーだけ死ぬのかと責めるような言葉を投げたが、もう落ちついており、エイドリアンに謝ってから礼を言い、丁寧に対応している。


「、、お前がルノーさんにしたことは無駄なんかじゃなかった。その時々で一生懸命考えたりやったことが無駄になんかならないよ。、、何かしらで生きてくる。こうやって。

、、重傷の人を安らかに逝かせるなんて医者だって難しいさ。、、よくやった。偉いよ。」


リチャードはルノーの安らかな表情を見て涙を流し黙っているヨハンに自分も膝をついて姿勢を合わせ、背中をさすって励ます。ヨハンは頷き、やっとルノーに話しかける気になってきたようで、涙を拭いてからルノーの顔を見つめた。


「、、ルノーさん、、。、、少し前まで、、お会いしたらひたすら謝らなきゃ、僕のせいで貴方は、、と思っていました。

、、、それに、、貴方を苦しめて殺めた奴らを憎んだりもした、、奴らを法でもなんでも、何かしらで裁くためにガザに戻ろうなんて考えたり、、でも、、今は思います。


、、まずは安らかに天国で過ごしていただきたいです。モニカさんや僕はまだまだお会いできないですが、、何十年後にお会いしたらオーボエやギター、やっていたなら音楽の話しましょうよ。デュオしたいです。


、、で、僕が今やるのは貴方を殺めた人を裁こうとしたり憎むんじゃなく、、なんでそんなことをあの人たちがしたのか、、現実を見ていくことだし、、もっと大学で国際関係や国際法や語学を学ぶこともでしょうし、、貴方が命を賭して守ってくださった物資の手配をお手伝いすることですよね。


、、そして、、貴方が聞きたかったって言ってくれたヴァイオリンも、僕自身のためにも誰かに向けても弾いていきます、、これから葬儀で弾くからきちんと聴いてくださいね?


、、、最初は厳しいから反抗しちゃったけど、、もっと、、もっと貴方と話したかったし、、貴方を尊敬してました、、大好きでした、、なんで、あんな惨い亡くなり方なんだって思うけど、、その感情は未来にこういうことを、、起こさせないように、、繋げたいと思います、、。」


ヨハンは最後の方は泣いてしまい、声は出さずに嗚咽しながら俯いた。

ヨハンは立とうとしたがうまく立てず、リチャードと司に支えられて、後ろの方に数脚ある椅子に座る。

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